【経営者インタビュー】「廃業しない」という選択肢

【経営者インタビュー】「廃業しない」という選択肢:有限会社大和建材 代表取締役社長 小室義明様

会社の終焉は、多くの場合、計画的にいかないことも少なくありません。円満廃業という選択は必ずしも正解ではありません。それぞれの人生観によって答えは変わってくるものです。

この度、会社が終焉期に差し掛かりつつある経営者にインタビューする機会を得ました。インタビューを通じて、会社の経営は計画的であるその一方で、経営者の感情や状況・直感に従ったさまざまな選択の積み重ねでもあり、「こういう選択もあるのですね」という新しい発見を覚えました。

インタビューの生の声を通じて、円満廃業とはなにか、一緒に探求していきましょう。

目次

インタビューをさせていただいた方

有限会社大和建材 代表取締役社長 小室義明様(74歳)

1988年創業で、インタビュー時(2023年)には設立35年になる工事店を経営。生コンクリートの製造販売から始まり、現在は戸建てのエクステリア、外構工事、解体工事が中心で、お客様からの要望に合わせて、新しいことにもチャレンジしています。最近ではハウスメーカーの大型造成工事にもチャレンジしています。

創業のきっかけは何でしたか?

小室様:
いまから35年前、昭和63年に、前職の社長と折り合いがつかず、その他の事情も重なったことから、当時勤めていた会社を辞めて、新たにスタートしました。当時の勤め先ではセメントに関連する仕事をしていたことから、業界についての土地勘があるコンクリートの製造販売を初期は主な事業としていました。

会社を設立した当初のビジョンや目的は何でしたか?

経営者としてのビジョンを掲げるということはじつはなく、「自分の会社に雇われている営業マン」という感覚で、とにかく一生懸命に働いてきました。銀行などからは、「社長は損益計算書を読めないと失格」と言われることもありましたが、自分が不得手の分野は信頼できる税理士に見てもらうなど、他人に任せられる分野は委ねて、自分の仕事を全うしてきました。

経営を続ける上で最も大切にしている価値観や原則は何ですか?

「男ならば一度口にしたことは絶対にとり下げない」というのが私の原則、ポリシーかもしれません。

例えば、見積もり金額を◯◯円と決めたら、その後たとえ原価が予算を超えたとしても、お客様への価格は上げず、そのままの金額でなんとか着地させます。また、工事に瑕疵が見つかった場合、それがもし弊社に問題がなかったとしても、補修工事はすべて無償で行ったりしてきました。

経営者としては会社の利益を確保することを優先すべきなのかもしれませんが、それ以前に、私は私自身のポリシーに従います。今風に言い換えると「顧客満足度を最優先にしている」というものかもしれません。お客様のご要望を最大限実現することはもとより、そこに至るまでのお客様の負担をなるべく減らすように努力しています。

経営としてのカッコよさは全くありません、ただの弱気な親父ががむしゃらに努力しているだけ、と思っていただければ幸いです。

お客様とはどのような関係を築いてきましたか?

お客様の要望をそのまま実現することが大切だと考え、なるべくお客様の負担を減らすよう努力しています。例えば、将来的に台風などでお客様が困らないように、工事の際は予防的なことも行っています。ご要望にはないことなので、すぐにはその効果を実感していただけないかもしれませんが、半年や一年後、大雨などの際にその工事の強度に感謝していただいています。

現在の会社の状況はどうですか?

現在は私も含め5名のスタッフで業務を進めています。弊社のような小さな企業は、資金繰りの観点からも毎日売り上げを立てなくてはなりません。近年、仕事の量は非常に増えてきましたが、資材の高騰などにより以前より利益が出しづらい点が課題です。もちろんお客様とはそのような状況を共有した上で価格交渉を試みますが、弊社の利益を大きくしようとするとやはり受注量が減少してしまうため、難しい状況です。

会社を畳むという選択を考えたことはありますか?

地域でもっとも大きい銀行さんからもM&Aの提案を受けた際に少し考えたことがあります。銀行さんからは「この会社を廃業させると、もったいないですよ」と言われたのです。「これだけのマーケット獲得をしているのであれば、若くてやる気のある他の方が引き継いでもらったほうが会社は成長するのでは?」といった趣旨のご提案でした。

ですが、詳しく話を聞いてみると、結局のところは銀行も自分たちの利益を最優先していることが端々に感じられてしまい、M&Aは私の価値観にはマッチしないと感じ、最終的はその提案を断りました。畳むことを一瞬考えたのはその時だけです。

後継者はいますか?

現在、甥が専務を務めています。ですが、会社をまるごと託すには営業や経理の経験を今より更に積んでもらう必要があると考えています。そこで来年度には甥に代表取締役社長になってもらい、私は代表取締役会長となる、という体制変更を考えています。

私は営業力には自信があります。営業とは、ただお客様と話すだけではなく、お客様との頻繁なコンタクトが重要です。最近では私もLINEを営業活動に取り入れています。これによりお客さまとの確認事項もすぐに返事がもらえるし、既読がつけば相手が理解したと判断し、スムーズにコミュニケーションが取れるので非常に便利です。

弊社の受注の95%は、私個人を信頼してくれているお客さまからの紹介、私が開拓したハウスメーカー、私が執筆している会社のブログからのもので、これが受注の三つの柱です。甥が同じことをするのは難しいかもしれませんが、経験を積めば甥も自分自分の営業スタイルを築けるのではないかと思います。

また、弊社は多くの資材や機材を保有しており、その保管のために他人の土地借りています。その土地の使用料を払い続けないといけないことは甥にとってはプレッシャーとなるかもしれません。また、公的な手続きや申請も今は私が一手に担当しており、行政書士を利用せずにすべて自分で行っています。ここまでできるのは私の強みですが、甥が同じようにできるかは、やってみないと分からないですね。

従業員や家族、取引先とのコミュニケーションの中で、経営の継続や終了についての意見交換はありますか?

子供たちは私を心配していますが「成り行き」で何とかなる、と私は信じています。

私は、他の多くの人が連休を楽しんでいる間も、家に帰っては仕事をしていますし、お客様からの要望があれば休日であってもすぐに駆けつけます。

息子の世代にはワーカホリックが少ないようです。私は、ワーカホリックでなければ気が落ち着きません。現代の若い人たちは金曜日を週末と言いますが、私は土曜日を週末と考えています。私にとって週末を楽しむためには仕事が必要です。

私の同世代でサラリーマンだった方々は、現在は引退し、朝起きて犬の散歩など一般的な年配者の生活をしています。私は、昔から変わり者で、仕事が本当に大好きです。人からは少し変だと言われることもありますが、私には仕事が必要です。ボケたくないのです。

会社を畳むという決断をする際の、最も重要なポイントや判断基準は何だと考えていますか?

正直なところあまり考えておらず、「とにかく成り行きで進めていく」というのが私の今の判断です。会社を畳むというのは、色々な手続きはあるものの着手すれば簡単なことかもしれません。ですが、実際に弊社を廃業するとなると、多くの人に迷惑をかけてしまいます。それを今やりたいとはどうしても思いません。

私は、仕事の先頭に立って取り組むことについて、まだ5年は続けられると感じていますし、その後も引退するつもりはありません。自分の会社には深い愛着を感じています。私自身が築き上げた愛すべき会社ですから、最後までしっかりとやり遂げたいと思っています。

他の経営者や先輩たちからのアドバイスや経験談で、特に心に残っているものはありますか?

アドバイスとかではないのですが、私たち自営業者の間では「いつまで続けます?」とよく言い合いますね。

同世代の方のほとんどが、地域のコミュニティセンターに参加しています。私たち自営業者は、なかなかそういった地域活動ができません。ですので、自営業仲間とは「頑張って続けようね」と言い合っています。死ぬまで頑張っていくつもりです。

実は、最近、台風が来た際に地域の高齢者向けのボランティア活動の募集がありました。正直、参加してみたいと思いました、私たちが行けば間違いなく役に立てるので。でも、仕事があったために参加できませんでした。あれはかなり残念でした。

これまで振り返ってみてどうですか?

私の経営における最大の失敗は「将来を見越す視点を持たなかったこと」です。常に目先の自己資金に困っており、毎月の支払いに四苦八苦しました。銀行取引が難しい時期には、入金があるとすぐに問屋さん(建材メーカー)へ支払っていたので、手元にはほとんどお金が残りませんでした。

従業員がいる以上、給与はきちんと支払わなければなりません。足りない分は、自分の貯金から補填してきました。その結果、奥さんに何度も叱られました。今も、1ヶ月分の資金を確保したいと考えてはいますが、なかなかそれを実現できていません。銀行からの借入れも考えますが、返済が厳しくなるのが怖かったので借りないことにしています。

一方で、仕事の量は増えています。しかし、実際の収益はそこまで多くはありません。大きく利益を上げようとすると他の安価な業者に流れてしまい、結果としてお客様が残念な工事で悲しい思いをしてしまう、そう考えると過剰な利益を求めるのが難しい状況です。

救いとしては、建物の材料は時代とともに進化していますが、その内容を理解する基本的な知識は、30〜40年前に学んだことと大きく変わっていません。当時学んだことが今でも使えるのは、まだまだ長く続けられる理由の一つです。

会社を畳んだ後の経済状況はどうなりそうですか?

いま引退しても、過度に出費しなければ、経済的には年金だけで生活することは可能です。しかし、お金は常に足りなくなるものです。日常的に仕事を続けていれば、年金だけでなくその他の収入も入ってくるので、やはり安心ですね。

しかしながら、実際には給与がどれだけ多くても、会社の資金繰りがスムーズに行かなければ、給与を会社に貸してしまい、なかなか回収しきれません。このままでは、その貸付金はいずれ会社を引き継ぐ甥っ子への贈り物となるのかもしれません(笑)。

ご自身のこれからについては?

経営のビジョンは持たなかったのですが、そのことに後悔は感じていません。今日は暑いね、寒いねと、その日その日に感じることを大切にしています。私はいつ死んでも良いと思っており、人生に悔いはありません。

今も仕事を続けているモチベーションの一つに、若い世代のお客様と話すことで元気をもらっていることがあります。やはり、人生は楽しむべきです。こんなふうに自分で仕事をして、自分なりに楽しみを見つけられていることは、幸せだなと感じています。

友人からは、私は少し馬鹿だけど運が良い、と言われることが多いです。人生は半分運、半分努力。だから、仕事を続けられているのは、運が良いのでしょう。仕事がなくなり、途方に暮れている時でも、新しい仕事が現れるというのが、私の人生でした。

若い世代の経営者や起業家へのアドバイスやメッセージをお願いします。

自分で起業するということは、社会に対して「自分の存在を認めてほしい」という意思表示をしたことですね。頑張ってください。

時には倒産したり、周りに迷惑をかけることもあるかもしれません。厳しい世界ですので、ただのかっこよさだけを求めるのではなく、泥臭く努力する姿勢が必要です。田中角栄さんのように、粘り強くやってみてください。

編集部の感想

義明さんにとっては、会社はたいせつな宝物だニャン。ご家族は会社のエンディングについて心配しているいっぽうで、これまでの積み重ねを大事にしながらも生きがいは持ち続けて欲しいと思うんだろうニャ。

 エマニャン

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円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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