円満廃業への想い
日本古来の伝統文化として伝承されているものの一つに茶道があります。茶道が大きく大成したのは今よりさかのぼること500年前、千利休によるものでした。千利休が生み出したのは「わび茶」といわれる様式です。それまでの豪華・華麗な様式に対して、「わびさび」と呼ばれる簡素静寂な境地を重んじたものになります。
「わび茶」においては、どんなに地位が高い人、どんなにお金を持っている人であっても等しく極端に狭い茶室に、狭い入口からかがみながら入っていき、朽ち果てかけたような茶碗で静かにお茶を飲みます。こうして豪華可憐なものをそぎ落とすところに美しさを見出し、真の心の豊かさを生み出すことになります。
一方、現在の企業は資本主義経済という荒波のなかで航海を続けています。その荒波の中では、「いかにお金を稼ぐか」「どうやって力を拡大していくか」がテーマになります。競合他社に打ち勝つために新しい商品・サービスを開発し、ゴリゴリ営業をかけ、たくさんのお金を集めて投資回収の金額を増やしていくことになります。
そうして、そこに携わる人たちは、お金を手にして豪華な家や車を手にし、周囲から注目を集めていくという「成功」を目指していくのです。この上昇気流に乗っていく過程には快楽がともなうため、その一歩一歩の前進に興奮と満足を味わっていき、そして「もっともっと」努力をしていくのです。これを続けていくことも人生におけるひとつの醍醐味なのかもしれません。
しかし、この世に存在するあらゆるものは常に移り変わり、そして終わりがあります。どんなに盛況なビジネスも必ず終わりがあります。上昇気流にのってイケイケで戦っているときは考えもしなかったことです。終わりを意識したとき、人はもの悲しい気分を味わうこととなります。例えるならば、お祭りのような熱狂する時間がおわって、興奮から醒めた虚脱感やさみしさのような感覚だと思います。人によってはこれが嫌だと言うことがあるでしょう。
そんな時こそ、日本人が古くからもつ美しさに触れるチャンスなのです。「わびさび」が意味するような、静かさや質素さ、そして何よりもその不足感を受いれたときに美が生まれてくるのです。
いま日本全国に中小企業は約380万社あります。そのうち年間5万社が姿を消しているといわれています。多くの会社が消滅へと駒をすすめるなか、M&Aや事業承継によって新たに生まれ変わろうとする会社もあります。これはまた新しい上昇気流が生まれる楽しさもあることでしょう。そして、それをサポートするビジネスも活況です。
しかし実態は、事業承継が不可能な会社がほとんどです。そのビジネスが経営者の人的能力に依存していたり、後継者不在で事業を継続できないからです。これらの会社には悩みが多く、タスクも多いにも関わらず、サポートをするビジネスもほとんど存在していません。
私たちはこの円満廃業ドットコムというサイトを通じて、廃業をする会社、経営者をサポートしていきます。廃業という過程をサポートするとともに、そこにある美しさに触れ、これからの人生でテーマとする真の豊かさを発見してもらいたいと願っています。
円満廃業ドットコム
編集長 上田智雄
(いっしょに税理士法人 代表税理士)