会社を廃業する場合に、従業員の不安を和らげることは経営者としてはしっかり考えておきたいところ。実は、廃業によって従業員が退職する場合は、通常の退職よりも手厚い保護が受けられることをご存じですか?
本記事では失業保険の特定受給資格者を取り上げます。これはあなたの会社の従業員への説明の際にも、従業員にとってプラスな情報をとして伝えられる情報です。
廃業による退職は会社都合の「解雇」扱い
会社を廃業する場合、従業員は解雇という形になります。従業員の退職と失業保険の受給に関しては、退職理由に焦点が当たります。退職理由が、労働者側の都合によるものか、会社側の都合によるものかで、条件が大きく異なってくることから、退職者は「自己都合か?会社都合か?」という点を気にします。
廃業による解雇は会社都合の退職になり、自己都合による退職のケースよりも手厚いサポートを得ることができます。
たとえば、会社都合による退職であれば、失業保険は待期期間なく受給されます。正確には受給資格の決定を受けてから7日間は待期期間になり、基本手当は支給されませんが、自己都合の場合に比べると待期期間は格段に短くなります。自己都合の場合は、給付制限期間で失業保険が支給されない期間は以前は3ヵ月でしたが、令和2年から「5年間に2回までは2ヵ月」に短縮されました。
7日間と2か月(または3か月)は大きな違いですね。廃業を決めた経営者にとって、従業員が失業保険をすぐに受け取ることができるのは良いことではないでしょうか。
なお、受給に関しては 1日あたりの受給上限金額が設けられており、給料の6~7割程度の概算で計算されます。受給日数については雇用保険の加入期間や年齢により最短90日〜最長330日で変動します。
失業保険の特定受給資格者とは
このように、廃業による解雇で退職した人たちは、失業保険の観点から見ると「特定受給資格者」という位置づけになります。失業保険の特定受給資格者とは、主に倒産や解雇等の理由で再就職の準備をする時間的余裕がない状態で離職を余儀なくされた人が対象となります。
特定受給資格者の対象者を具体的に以下で見てみましょう。
Ⅰ 「倒産」等により離職した者
① 倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て又は手形取引の停止等)に伴い離職した者
② 事業所において大量雇用変動の場合(1 か月に 30 人以上の離職を予定)の届出がされたため離職した者及び当該事業主に雇用される被保険者の 3 分の 1 を超える者が離職したため離職した者
③ 事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む。)に伴い離職した者
④ 事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者Ⅱ 「解雇」等により離職した者
① 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準(厚生労働省)
② 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
③ 賃金(退職手当を除く。)の額の 3 分の 1 を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2 か月以上となったこと、又は離職の直前 6 か月の間に 3 月あったこと等により離職した者
④ 賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて 85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
⑤ 離職の直前 6 か月間のうちに 3 月連続して 45 時間、1 月で 100 時間又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
⑥ 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
⑦ 期間の定めのある労働契約の更新によリ 3 年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
⑧ 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記⑦に該当する者を除く。)
⑨ 上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者
⑩ 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
⑪ 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き 3 か月以上となったことにより離職した者
⑫ 事業所の業務が法令に違反したため離職した者
特定理由離職者とは
なお、「特定受給資格者」とは別に「特定理由離職者」というものがあります。こちらも失業保険の受給対象者の呼称ですが、特定受給資格者との違いの1つが離職理由です。 離職理由によって、特定理由離職者と特定受給資格者のどちらに判断されるかが変わります。
特定理由離職者は、期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した人(継続の意思があったにもかかわらず)や、正当な理由があり、やむを得ず自己都合退職せざるを得なかった人たちが対象となります。
正当な理由とは体力的なものや、家族の事情(たとえば、結婚にともなう住所の変更)などです。倒産や解雇による場合は特定受給資格者となります。
このように、失業保険によって従業員はある程度守られますが、会社としてできることもあります。例えば、
・十分な退職金の用意
・次の就職先の斡旋
・退職後の事務手続きを速やかに行う
などがあります。元従業員に対しての源泉徴収票もできるだけ早く発行するなど、経営側としての誠意を見せるポイントもあります。
解雇の話を従業員にする場合は、特定受給資格者となって失業保険は速やかに受給できることをしっかりと伝えていきましょう。