会社の掃除には、単に汚れを落とし、職場をきれいに保つ以上の意味があります。デスクや共有スペースを整えることで気持ちが切り替わり、これまで見過ごしていた会社の小さな違和感に気づくこともあるでしょう。
また、経営者自身が掃除をする姿勢は、言葉以上に会社の空気や価値観を形づくります。
本記事では、会社を掃除する効果や社長が自ら掃除をする意味について解説します。事業承継や経営の卒業を考える前にも、まずは足元を整えることから始めてみてください。
会社が散らかっていると心まで落ち着かない
会社に出社したとき、デスクの上に書類が積み重なっている、共有スペースには、誰のものかわからない備品が増えている――。
そんな状態が続くと、仕事そのものに支障はなくても、なんとなく気持ちが落ち着かないものです。
一般財団法人サニクリーンアカデミーの調査でも、オフィスで働く人の6割が、共有部分の片付けや掃除を自主的に行っていると回答しています。
経営者は日々、売上や資金繰り、人材、取引先など多くのことを考えています。頭の中だけでも十分に忙しいのに、目に入る場所まで雑然としていれば、余計な情報を受け取り続けることになります。
反対に、机の上が整い、床がきれいになり、必要なものがあるべき場所に収まっていると、それだけで気持ちが切り替わることがあります。
会社の掃除には、単に見た目をきれいにする以上の効果があるのではないでしょうか。
参考:オフィスのおそうじ意識調査|一般財団法人 サニクリーンアカデミー
掃除は「汚れを取る仕事」だけではない
掃除というと、床を拭く、ゴミを捨てる、トイレを磨くといった作業を思い浮かべるでしょう。
もちろん、それも掃除の大切な役割です。しかし経営者にとっては、もう一つ意味があります。それは、自分が日々過ごす場所を、自分の手で整えることです。
会社は社員が働く場所であると同時に、経営者が長い時間をかけて育ててきた場所でもあります。そこをどのように扱うかには、会社そのものに対する姿勢が表れます。
掃除は業者に「任せればいい」は間違いではない
「掃除は専門業者に任せればいい」と考えること自体は、決して間違いではありません。
経営者の時間には限りがあります。清掃を専門業者に依頼し、その時間を経営判断や顧客対応に使うのは、合理的な選択です。
大切なのは、「誰が掃除するか」と「会社という場所に関心を持つこと」を同じ問題にしないことです。
清掃業務を外注していても、経営者自身が机の上の乱れを気にしたり、床に落ちているゴミを拾ったりすることはできます。
それでも自分で掃除をする意味がある
それでも、ときには経営者自身が掃除をしてみることをおすすめします。
大がかりな掃除をする必要はありません。
- 朝、自分のデスクを一度拭く
- 会議室の椅子を整える
- 床にゴミが落ちていたら拾う
それだけでも十分です。
自分で手を動かすと、それまで気づかなかったものが見えてくることがあります。
- この書類は、なぜ半年もここに置いたままなのだろう
- この備品は、もう誰も使っていないのではないか
- ここは社員にとって使いにくくないだろうか
掃除とは、会社をきれいにするためだけではなく、経営者自身の心を整え、次の仕事に向き合うための小さな習慣でもあります。
「一掃除、二信心」――掃除と禅に共通するもの
禅の世界には、「一掃除、二信心」という言葉があります。
これは、信心よりも先に、まず掃除をすることが大切である、という考え方です。禅では掃除そのものが修行の一つとされ、汚れているから掃除をするのではなく、日々繰り返し場を整えることに意味があるとされています。
この考え方は、会社経営にも通じるところがあります。
経営者は、どうしても未来を考える仕事が多くなります。
- 来月の売上はどうなるのか
- 新しく人を採用すべきか
- 新しい事業に投資すべきか
それだけでなく、年齢を重ねれば、事業承継やM&A、あるいは自分がいつ経営から離れるのかを考えることもあるでしょう。
しかし、どれだけ考えても答えが出ない問題もあります。
そんなときこそ、目の前のことに手を動かしてみましょう。
掃除をしたから経営課題が解決するわけではありません。それでも、場を整えることで頭の中まで少し整理され、改めて問題に向き合えることがあります。
「一掃除、二信心」という言葉は、遠い未来について考え続ける前に、まず足元を整えることの大切さを教えてくれているのではないでしょうか。
社長がトイレを掃除する会社は、なぜ強いのか
「社長自らトイレを掃除している会社」と聞くと、立派な経営者だという印象を持つ人もいるでしょう。
もちろん、社長がトイレ掃除をしたからといって、売上が伸びたり業績が良くなったりするわけではありません。
大切なのは、トイレ掃除そのものではなく、誰も積極的にはやりたがらない仕事に対して、経営者がどのような態度を取るかということです。
誰もやりたがらないことこそ社長がやる理由
会社には、目立つ仕事と目立たない仕事があります。
大きな商談や重要な経営判断は注目されやすい一方、ゴミを捨てたり、備品を補充したりするといった仕事は評価されにくいものです。
だからこそ、経営者がそうした仕事をどう扱っているかには、その会社の価値観が表れます。
床にゴミが落ちていても、「誰かが拾うだろう」と通り過ぎるのか、それとも、自分で拾うのか。
「これは社長の仕事ではない」と考えることもできます。しかし、会社の中で起きていることに、経営者にまったく関係のないことはありません。
誰かに指示する前に自分が動くことで、「この会社を大切に扱うのは、誰か一人の仕事ではない」という姿勢を示すことができます。
経営者の行動は言葉以上に会社の空気を作る
経営理念や行動指針を掲げる会社は多くあります。
しかし、社員は経営者の言葉だけを見ているわけではありません。日常の何気ない行動から、「この会社では何が大切にされているのか」を感じ取っています。
- 社長が落ちているゴミを自然に拾う
- 使った会議室の椅子を元に戻す
- 汚れている場所があれば自分で拭く
そうした姿を見れば、「社長だからやらなくていい仕事がある」のではなく、「気づいた人が会社を整える」という空気が少しずつ生まれていきます。
場を整えると、「会社の違和感」に気づける
掃除をしていると、それまで見過ごしていたものが目に入ることがあります。
- 何年も使われていない備品
- 誰も読んでいない掲示物
- 古いまま残っている書類
- 壊れているのに放置された設備
日常の中では風景の一部になっていても、いざ片付けようとすると「これは、なぜここにあるのだろう」と立ち止まる瞬間があるでしょう。
こうした違和感は、会社の中にある小さな滞りを教えてくれます。
そして同じことは、経営そのものにもいえます。
- 長年続けてきたものの採算が合わなくなった事業
- 誰も目的を説明できない会議
- 昔からの慣習だけで続いている業務
会社には、物だけでなく「なぜ続けているのかわからないもの」が少しずつ積み重なっていきます。
掃除は、そうしたものをすぐに捨てるための行為ではありません。まずは、そこにあることに気づくことです。
会社経営では、大きな問題ばかりに目が向きがちです。しかし、本当に見直すべきことは、日常に紛れた小さな違和感の中に隠れていることもあります。
会社を整えることは、「残すもの」を決めることでもある
片付けをするとき、多くの人は「何を捨てるか」を考えます。
しかし、本当に大切なのは、捨てることそのものではなく、これからも何を残したいのかを決めることです。
これは会社についても同じです。
事業を長く続けていると、商品やサービス、取引先、社員との関係、社内の文化など、さまざまなものが積み重なります。そのすべてを同じ形のまま残し続けることは難しいでしょう。
特に、事業承継を考える場面では、「会社を残すかどうか」だけではなく、会社の何を残したいのかを考えることが重要です。
会社名や法人そのものより、長年付き合ってきた取引先との関係や、社員の雇用、培ってきた技術を次につなぐことのほうが大切だと感じる経営者もいます。
一方で、今の事業をそのまま続けることにこだわらず、自分の代で役割を終えると判断することもあるでしょう。事業承継もM&Aも廃業も、単純に「会社を残すか、なくすか」という二択ではありません。何を残し、何を手放すのか。その選択の積み重ねです。
綺麗な会社には良い縁が入りやすい
「会社を綺麗にしていると運気が上がる」といった話を耳にすることがあります。
掃除をしたからといって、突然売上が伸びたり、良い取引先が現れたりするとは限りませんが、整えられた会社が人に与える印象は決して小さくありません。
初めて訪れた会社の玄関や会議室がきれいに整っていれば、「この会社は細かなところまで大切にしている」と感じる人もいるでしょう。
一方で、書類が無造作に積まれ、備品が散乱している会社を見れば、「管理は大丈夫だろうか」と不安に思われることもあります。
これは取引先や求職者だけではありません。将来的に事業承継やM&Aを検討することになれば、後継者や譲受企業も、その会社がこれまでどのように扱われてきたのかを見ています。
もちろん、オフィスが綺麗だから企業価値が高まるという単純な話ではありません。
それでも、帳簿や契約書が整理され、資産が適切に管理され、社内の環境まで丁寧に整えられている会社からは、経営者が会社を大切にしてきた姿勢が伝わります。
良い縁とは、偶然に舞い込んでくるものだけではありません。人に信頼してもらえる状態をつくり、その縁を受け入れる準備をしておくことも大切です。
今日の一歩:出社したら目についたゴミを一つ自分で拾う
会社をきれいにしようと思っても、「まずは大掃除をしなければ」と考える必要はありません。
今日から始めるなら、出社したときに目についたゴミを一つ、自分で拾う。それだけで十分です。
経営者になると、会社の中で自分が直接手を動かす機会は少なくなります。
しかし、床に落ちている小さなゴミに気づいたとき、「誰かが拾うだろう」と通り過ぎるのか、自分で拾うのか。その違いには、会社に対する姿勢が表れます。
重要なのは、社員に見せるために拾うことではありません。「社長がやっているのだから社員もやるべきだ」と暗に強制する必要もありません。
会社を掃除する効果についてよくある質問
最後に、会社を掃除する効果についてよくある質問をQ&A形式で紹介します。
- 掃除はメンタルに良い効果がありますか?
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掃除をすれば必ず気分が良くなる、ストレスがなくなるとまでは言い切れません。ただ、身の回りの環境と心理状態には一定の関連があることが研究でも示されています。
たとえば、米国で共働き世帯を対象に行われた研究では、自宅を「散らかっている」「未完成な状態」と表現する傾向が強かった女性ほど、ストレスに関連するコルチゾールの日内変化や気分に違いがみられました。
もっとも、これは家庭を対象とした研究であり、「掃除そのものがメンタルを改善する」と直接証明したものではありません。
それでも、散らかった机を整えたり、目につく汚れを落としたりした後に、「少しすっきりした」と感じることはあるでしょう。
- 会社を掃除させることはパワハラになりますか?
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社員に掃除をしてもらうこと自体が、直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。
厚生労働省では、職場のパワーハラスメントを「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「就業環境が害されるもの」の3要素をすべて満たすものとしています。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲の適正な業務指示はパワハラには該当しません。
そのため、職場環境を維持する目的で、合理的な範囲の清掃を社員に担当してもらうことが直ちに問題になるわけではありません。
一方で、特定の社員だけに掃除を押し付ける、罰としてトイレ掃除を命じる、人格を傷つける言葉とともに清掃を強制するといった場合は注意が必要です。
会社を整えることは、これからを考える準備になる
会社を掃除する効果は、職場環境を清潔に保つことだけではありません。自分の手で場を整えることで気持ちが切り替わり、社内にある小さな違和感や、これから残したいものにも目を向けやすくなります。
会社を長く経営してきたからこそ、積み重なったものを一度見直す時間は大切です。
何を続け、何を手放し、何を次の世代へ残すのか。
事業承継やM&A、廃業といった大きな判断も、その延長線上にあります。
まずは今日、出社したときに目についたゴミを一つ、自分の手で拾うことから始めてみてはいかがでしょうか。
事業承継や経営の卒業についてお悩みの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。



