会社売却を考え始めると、どうしても「自社はいくらで売れるのか」に意識が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、売却によって得たお金を使って、その後どのような人生を送りたいのかを考えることではないでしょうか。
会社を手放した後にも、経営者の人生は続きます。売却価格だけを見ていると、会社を売ることそのものがゴールになり、その先の人生が空白になってしまうこともあります。
本記事では、売却代金を人生から逆算して考える方法や、会社売却後に起こりやすい心境の変化、経営から卒業した後の過ごし方について解説します。「いくらで売るか」だけでなく、「何のために売るか」を考えるきっかけにしてください。
会社を売るとき、なぜ「いくらで売れるか」ばかり考えてしまうのか
会社売却を検討し始めると、多くの経営者が最初に気になるのは「自社はいくらで売れるのか」という点です。
長年かけて育ててきた会社だからこそ、少しでも高く評価してほしいと考えるのは自然なことです。M&Aでは、企業価値や株式価値といった数字が前面に出やすく、売上や利益、純資産、将来性などが売却価格に反映されます。
経営者自身も、日頃から売上や利益、キャッシュフローといった数値を見ながら経営判断をしてきています。そのため、会社の出口を考える場面でも「金額」を軸に考えやすいのでしょう。
もちろん、適正な価格で会社を売却することは重要です。長年積み重ねてきた事業の価値を正しく評価してもらうことは、経営者として当然意識すべきことです。
ただし、売却価格を最大化することだけが、会社売却の成功とは限りません。
会社を売った後にも、経営者の人生は続きます。
だからこそ、「いくらで売れるか」と同じくらい、「売った後にどう生きたいか」を考えておく必要があるにゃん。
本当に考えたいのは「いくら入るか」ではなく「何に使うか」
会社売却によってまとまった資金を得たとしても、そのお金自体が人生を豊かにしてくれるわけではありません。
重要なのは、そのお金を使って「どのような時間を過ごしたいのか」「何を実現したいのか」を考えることです。
お金そのものが人生の目的になることはない
例えば、会社を売却して数億円の資産を得たとしても、その数字を眺めているだけでは生活は変わりません。
- 家族と長期旅行をする
- 新しい事業に挑戦する
- 趣味に時間を使う
- 地域や次世代の経営者を支援する
上記のように、お金の使い道があって初めて、その資産は意味を持ちます。
会社売却を考える際には、「できるだけ高く売る」という発想だけでなく、「自分は何のためにお金を必要としているのか」という問いを持ってみることが大切です。
お金は「自由へのチケット」と考える
お金の大きな価値の一つは、人生の選択肢を増やしてくれることです。
十分な資産があれば、必ずしも生活のためだけに働き続ける必要はありません。働く場所や時間を選んだり、家族との時間を増やしたり、新しい挑戦を始めたりすることもできます。
言い換えれば、お金は「自由へのチケット」です。
ただし、チケットを持っているだけでは目的地には着きません。どこへ行きたいのかを決めて初めて、その価値を活かせます。
会社売却後に「何をするかわからない」という経営者は珍しくない
会社売却を終えた後、「自由になったはずなのに、何をすればいいかわからない」と感じる経営者もいます。
これは決して不思議なことではありません。
経営者にとって会社は「仕事」以上の存在だから
経営者にとって会社は、単に収入を得るための場所ではなく、下記のように、経営者は様々なものを会社と結びつけています。
- 毎日の予定
- 人とのつながり
- 社会における役割
- 達成感
- 自分自身のアイデンティティ
特に創業者の場合、何十年もの間、会社を中心に人生を組み立ててきたケースも珍しくありません。
そのため、会社を手放すことは「仕事を辞める」以上に大きな変化です。資金面では余裕ができても、時間や役割に大きな空白が生まれることがあります。
売却後の後悔を考える際にも、金額だけを見るべきではありません。「もっと高く売れたのではないか」という後悔だけでなく、「会社を手放した後に何をすればよいかわからない」という喪失感もあり得ます。
売却前から「会社のない自分」を考えておく
だからこそ、会社を売却してから第二の人生を考えるのではなく、売却前から「会社のない自分」を想像しておくことをおすすめします。
ここで重要なのは、「売却後も何か立派なことをしなければならない」と考えないことです。
これまで十分に働いてきたのであれば、しばらく何もしない期間を持つのも一つの選択です。反対に、経営が好きなのであれば、再び会社を始めてもよいでしょう。
会社売却は人生のゴールではなく、次の人生へ進むための一つの手段です。
「会社をいくらで売るか」だけではなく、「その先でどんな人生を送りたいのか」。そこまで考えて初めて、自分にとって納得できる会社の出口が見えてきます。
売却代金の使い道を「人生」から逆算して考える
会社売却では、「いくらで売れるのか」という金額が先に話題になりがちです。しかし、本来は売却価格から人生を考えるのではなく、これからどのような人生を送りたいのかを考え、その実現に必要なお金を逆算するほうが自然です。
売却代金は、人生の目的そのものではありません。
これまで会社経営に使ってきた時間やエネルギーを、今後どこに振り向けるのか。その選択肢を広げるための資源と考えると、売却後の人生設計も見えやすくなります。
まず「やりたいこと」を金額抜きで書き出す
売却後の人生を考えるときは、最初から「いくら必要か」を計算しないことをおすすめします。
まずは金額を気にせず、以下のようにやりたいことを書き出してみましょう。
- 家族と長期旅行をしたい
- 地方と都市の二拠点で暮らしたい
- もう一度大学で学びたい
- 新しい事業を始めたい
- 趣味に時間を使いたい
- 若い経営者を支援したい
会社経営を続けていると、「時間がないから」「経営者だから」と後回しにしてきたことも少なくありません。
いったん現実的な制約を外して考えることで、自分が本当に求めているものが見えやすくなります。
「消費・挑戦・貢献」の3方向で考えてみる
やりたいことが浮かばない場合は、「消費・挑戦・貢献」の3方向から考えてみる方法があります。
「消費」は、自分や家族の暮らしを豊かにするためのお金です。旅行や住まい、趣味などが該当します。
「挑戦」は、これからの人生で新しいことを始めるためのお金です。再び起業する、学び直す、新しい分野へ投資するといった選択肢があります。
そして「貢献」は、自分以外の誰かのために使うお金です。子や孫への支援、若手経営者への援助、地域への寄付などが考えられます。
この3つに分けると、単に「何を買うか」ではなく、「これから何を大切にして生きたいのか」という視点でお金を考えられるようになります。
必要なお金が見えてから、売却条件を考える
やりたいことを整理したら、次にそれぞれに必要なお金を考えます。
ここで初めて、「自分は会社売却によって、どの程度の資金を確保したいのか」という目安が見えてきます。
もちろん、M&Aの売却価格は売り手の希望だけで決まるものではありません。買い手との交渉や会社の収益力、財務状況、将来性など、さまざまな要素によって決まります。
しかし、必要な資金や希望する時期がわかっていれば、「いくらなら納得できるのか」「いつまで経営を続けるのか」「売却以外の選択肢も検討するのか」といった判断がしやすくなります。
FIREが教えてくれるのは「働かないこと」ではなく、時間を取り戻すこと
近年は「FIRE」という言葉も広く知られるようになりました。
FIREは「Financial Independence, Retire Early」の略で、一般には経済的自立を実現し、早期退職する考え方として紹介されます。
ただし、会社売却後の人生を考えるうえで注目したいのは、「早く仕事を辞める」という部分だけではありません。重要なのは、お金によって「生活のために働かなければならない状態」から離れ、自分の時間の使い方を選べるようになることです。
会社を売却した経営者も同様です。
売却後にまったく働かなくてもよいですし、新しい事業を始めても構いません。週に数日だけ仕事をする、後進の相談役になる、社会貢献活動に時間を使うという生き方もあります。
今日の一歩|もし5億円あったら、何に使うか3つ書いてみる
会社売却後の人生を考えるために、今日できる簡単なワークがあります。
「もし自由に使える5億円があったら、何に使うか」を3つ書き出してみてください。
ここでは、「貯金する」「運用する」といった答えはいったん脇に置いてみましょう。お金を守る方法ではなく、そのお金を使って何を実現したいのかを考えるためです。
なかなか思いつかない場合は、「自分のため」「大切な人のため」「社会や未来のため」の3方向から一つずつ考えてみるのがおすすめです。
3つ書き出したら、さらに次の問いを加えてみてください。
「その中に、5億円なくても今日から始められることはないか」
例えば、世界一周はすぐにはできなくても、行きたい国を調べることはできます。大学に入り直すのが難しくても、公開講座を探すことはできます。誰かを支援したいのであれば、まず一人に連絡を取ることもできます。
会社の出口を考えることは、遠い将来の話だけではありません。
自分がこれから何を大切にして生きたいのかを確認し、その方向へ今日から少しずつ動き始めることでもあります。
事業から卒業した後の人生や過ごし方についてよくある質問
最後に、事業や経営から卒業した後の人生設計についてよくある質問を回答と共に紹介します。
- 会社を売却して後悔した人はいますか?
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会社を売却した後に、後悔や喪失感を抱く経営者はいます。ただし、後悔の理由は「売却価格が安かった」という金銭面だけとは限りません。
会社を手放したことで、毎日の予定や人とのつながり、社会における役割まで一度に失ったように感じるケースもあります。
特に、長年会社経営を続けてきた経営者にとって、会社は仕事場であるだけでなく、生活の中心や自分自身の一部になっていることがあります。
- 会社を売却した後、社長はどうなりますか?
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会社を売却したからといって、必ずすぐに社長を辞めるとは限りません。
M&Aの条件によっては、売却後も一定期間、社長や役員として会社に残るケースがあります。事業の引き継ぎや従業員・取引先との関係維持などを目的として、買い手から一定期間の継続勤務を求められることもあります。
会社売却は人生のゴールではなく、次の生き方を選ぶ節目
会社売却において、適正な売却価格を追求することはもちろん重要です。しかし、売却価格はあくまで手段であり、それ自体が人生の目的になるわけではありません。
まずは会社のない自分を想像し、家族との時間、新たな挑戦、社会への貢献など、これから何を大切にしたいのかを考えてみましょう。
送りたい人生が見えてくれば、必要なお金や納得できる売却条件も考えやすくなります。
会社を売ることは人生のゴールではなく、自分の時間の使い道を選び直す一つの節目です。
棺桶に札束を持ち込むことはできません。最後に残したいものが何なのかを考えれば、お金の使い道も少し違って見えてくるはずです。
経営の卒業を考えるなら、会社の価値と同時に、その先の人生にも目を向けてみてください。
事業承継や経営の卒業についてお悩みの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。



