会社をたたむと決めた際、今まで会社に尽くしてくれた従業員へ感謝の気持ちを伝えるのは、経営者として最後の仕事の1つです。使用者と労働者、この労使関係を円満に終えることができてこそリーダーです。
今回はさまざまな理由で廃業を決意した経営者の終わりについて事例を紹介していきます。
朝礼を使って伝えた事例
運送業を営んでいた久保田社長(65歳・仮名)は、事業が立ち行かなくなる前に廃業を決意しました。彼の長年のビジネス、愛して止まない会社は、経済的困難に直面してしまったのです。
「小さな運用会社はもう、個人事業主の集まりにはかないません。みんなスマートフォン片手にあらゆる小口配送を請け負うようになりました」
会社としての運営はここまでと割り切った久保田さんでしたが、これまでいっしょに働いてくれた仲間に対してはさまざまな思いがありました。
久保田さんは朝礼で全従業員を集め、廃業を伝えるとともに心から感謝の言葉を贈りました。
「会社がここまで大きく成長できたのは、ひとえに皆様のおかげです。個人の役割が大きな影響を与えていることを忘れずに、今後も頑張っていってほしいと思います」
涙を流しながら1人1人に声をかけ、感謝の気持ちを伝えていきました。
また、久保田さんは廃業を決意してすぐ、この朝礼を開きました。従業員の人たちが次のステップにリスタートを切るための準備期間を1日でも多く用意したかったからだといいます。
すぐに全社員に説明することによってその後の人生を考える時間を設けることができ、社員の人たちも納得されていたようです。
個別に伝えた事例
製造業を営んでいた岡山社長(62歳、仮名)は廃業を決意した後、従業員と個別の面談を設けることにしました。それぞれに時間を設け、1人1人に向き合い、今までの働きぶりや困難について話し、感謝の意を伝えました。
岡山さんは、従業員を大切にすることをモットーにしてきた社長なので、それぞれの成長もよく把握していました。会社のどのような場面で貢献してきたのか、個々のスキルやノウハウなど事細かに把握していたので、面談の際には感謝の気持ちだけでなく、それぞれの強みについても話されました。
「個人面談は今までに何度となくおこなってきたので、社員の人たちも今までしてきた面談のひとつとして身構えることなく応じてくれました。私や会社への感謝の気持ちはもちろんのこと、それぞれ次のキャリアに向けてのお話ができたのは良かったと思います。私自身も経営者として”最後の良い仕事ができた”と自負しております。」と語ってくれました。
さよならパーティー
会社の廃業日の夜、中田社長(66歳)は社内にて全従業員が参加するパーティーを開きました。決して大掛かりなものではありませんでしたが、社長の気持ちは全従業員に伝わっていたと思います。
廃業を決めた経緯や感謝の気持ちを伝えるパーティー開始後のスピーチでは、田中さんの話を涙ながらに聞く従業員もいるほど。
とくに「皆さんといっしょに働き、頑張ってきたことは、私の一生の誇りです。皆さんの努力に支えられました。本当にありがとうございました」の言葉には、社長自身も感極まっていました。
また、中田さんは1人1人に手作りの「感謝状」を贈り、貢献を評価しました。感謝の気持ちをカタチにした感謝状には新たな道での成功を祈る文面もあり、社長の心意気が伝わる最後のプレゼントとなりました。
パーティー終了後、田中さんは最後の1人が去るまでドアを締めず、全員が帰るのを見送りました。その姿は、彼が従業員に感じていた深い感謝の表れでした。
自分らしく、「ありがとう」をカタチに
従業員への感謝を伝えるのに、正解はありません。経営者の思い描く方法で良いと思います。廃業の手続きは、大変です。限られた時間のなかで、多くのタスクをこなしていかなければなりません。
しかし、円満に廃業するためにも、従業員への接し方を改めて考えてみてはいかがでしょうか。その後も続く人生の豊かさにつながっていくと思います。