60代、70代が次の人生の節目に
会社をたたんで廃業した経営者はやはりある程度高齢のかたが多いのでしょうか。廃業者の年齢構成を見てみると、60歳代以上が約9割以上を占めているというデータがあります。60~70歳という年齢は、人生のなかでもいくつもの困難に直面する時期です。
たとえば、親や配偶者の介護や親しい人との死別、定年退職よって働き慣れた職場を離れる、子供が独立するなど、さまざまな人生の節目を迎えます。企業の経営者が、60代で廃業して引退した場合も同様です。廃業。引退を契機に落ち込み、活動レベルが一気に落ちることは、老化を加速させる大きなリスクです。
当記事では、廃業による引退後に喪失感で悩まない心構えについて考えてみます。
どうすればよい?仲間を失ったと感じる喪失感
日本の多くの人々にとって、職業は自己同一性(アイデンティティー)の大きな部分を占め、仕事は生活の中心であり、社会との繋がりを形成する手段です。そのため、廃業を契機に引退をしたり、長年勤めた会社を退職したりすると、その瞬間から自己同一性の危機と孤立感に直面し、社会から取り残されたような感覚に陥りがちです。また、仕事を通じて得られていた日々の充実感や達成感が失われることで、人生に対する目的や意義を見失い、精神的な健康を害することもあります。
アメリカでは独立の象徴として車があり、免許を返納することでアイデンティーが失われる感じがする人がいると聞いたことがあるにゃん
肩書がなくなったことで、本来の自分ではなくなったような寂しさを感じることがあるでしょう。そかし、その肩書はビジネスマンとして活動していたころのあなたの一部であって、あなた自身の人間の本質とは関係ありません。廃業による引退がきっかけで離れていく人もいるでしょうが、ありのままの自分を認めてくれる本当の人間関係をつくるチャンスが増えるととらえてみてはいかがでしょうか。
「会社を社長として経営していたときの自分が本当の自分であった」という考えは捨て去りましょう。会社を経営していた人たちとの関係を切る必要はなく、集まったりする機会を定期的につくってみましょう。昔の仲間と飲んだり、ゴルフをしたりすれば、気分も晴れるのではないでしょうか。自分という人間性を認めてくれて、親しくつき合える、気の合う仲
間とだけ交友を楽しめばいいのです。
やっかいなのは、自由時間が引き起こす不安と焦燥感
実は、引退・退職後に突然訪れる自由時間の多さが、予期せぬストレス源となることがあります。引退・退職前は、仕事に追われる日々の中で「時間があればやりたいことがたくさんある」と考えがちですが、実際にその時間が手に入ると、何をすべきかわからなくなり、活動の計画や管理に苦労することがあります。これが不安や焦燥感を引き起こし、精神的な老化を促進する可能性があります。
たとえば、長年経営の仕事をしていて、昼も夜も仕事づくめだったとしましょう。引退したら、趣味のガーデニングや旅行、そして孫との時間を楽しみにしていたかもしれません。しかし、実際に退職してみると、毎日が週末のような感覚で、何をすればいいのか分からない日々が続いたりします。以前は時間の制約があったため、限られた時間の中で趣味や家族との時間を大切にできていたものの、反対に時間に余裕ができたことで、かえってそれらの活動が特別感を失い、日常が単調に感じられ始めたりします。
廃業にともなって引退した後に突然訪れる自由時間の多さは、計画や目標がないと、人生の目的や意義を見失いがちになります。その結果、精神的な健康を害し、不安や焦燥感、孤独感を感じることにつながり、これらは精神的な老化を促進する可能性があります。
この問題に対処するためには、引退前から趣味や活動に対する具体的な計画を立てること、新しいスキルを学ぶ、地域社会に参加するなど、社会的なつながりを維持することが重要です。また、リタイアメントコーチングや退職後の生活に焦点を当てたプログラムに参加することも、退職後の生活を豊かにする手助けになります。
いろいろやってみることも大事
引退後に始めたことが自分に合っているかどうかはわかりません。たとえば、地域のボランティア活動に参加したとしましょう。実際に参加してみると、若い世代との価値観の違いや活動のペースについていくのが難しく、期待していた充実感よりもストレスを感じることが多くなることもあります。退職後に新たに始めた活動が思い通りにいかないことも、ストレスや不安の原因となるため、「これは自分には合わなかったな」と潔く切り替えてほかのことを始めるのもよいでしょう。
リアルに動くべし!趣味を見つける・行動する
これまで仕事一筋で、趣味を見つけるような時間も気持ちもなかった人も多いでしょう。そうしても仕事だけで時間が謀殺されてしまうのも無理はありません。
廃業・引退するまで無趣味のまま来てしまい、引退を目前にして何をしようかと慌てるケースはよくあります。実はここに問題があります。
人間の脳で、意欲・好奇心・創造性・計画性などを司る部分が前頭葉です。年齢を重ねていくと前頭葉も老化していきます。脳の前頭葉は早い人で40代から縮み始めるといいます。この前頭葉が老化した状態だと、趣味に向かう好奇心や、この先を計画的に考える力がうまく働かないのです。いまのうちに動きましょう。
やる前からあれこれ考えて、結局何もやらないのは避けたいところ。否定的な思いにとらわれずに一歩を踏み出せば、老化を防ぎ、精神的にも肉体的にも若々しさを保つことができます。チャレンジする楽しさに目を向けてみましょう。
60代を超えてくると、興味がわくのを待つよりも意識して行動に移したほうがよさそうだにゃん
介護を理由にしない・介護を中心にしない
親族の介護で時間を費やすこともあるでしょう。やらないといけないことではあります。自分は相手の役に立っているという満足感を得ることもでき、前述の不安や焦燥感みたいなものは出てこないかもしれません。
しかし、介護は相当な時間を使います。あなたが、経営者時代に仕事にほとんど使っているのと同じくらいの時間を費やすでしょう。それよりも多いかもしれません。これまでの友達とは縁遠くなります。趣味を作る時間もないでしょう。精神的にも追い詰められてきて、メンタルに支障をきたすこともあります。さらに、介護していた家族が亡くなったあと、その介護者自身が、一気に老化が進んでしまうというのはよくあることです。介護はしつつも、介護を理由に新たなチャレンジをしないということは避けたいものです。
うつのサインを見逃さない
うつのサインを見逃さないことも重要です。「最近、やる気が起きない」「食欲がなくなった」、「夜に何度も目が覚める」「早朝に起きてしまう」ということはあるかもしれません。そして家族にその話をすると「歳だから」と片付けられてしまうかもしれません。うつに関しては、自分の気分に気づく前に「体がだるい」「慢性的に疲れている」といった自覚症状の時もあります。バリバリと仕事をやってきた経営者は、「気持ち」よりも「やるべきこと」を重視してきたでしょう。これがかえって、うつの発見を遅らせるという話もあります。
会社をたたんで廃業・引退した後も社会とのつながりを保ち、新たな趣味や活動に挑戦し、身体的にも精神的にも活動的なライフスタイルを送ることは当たり前ですが、この当たり前が意外とむつかしいものです。引退前から何かを見つけて、幸せな引退生活を送れる世にしましょう。