廃業の岐路に立たされている中、他の経営者の経験を知ることは、今後の判断の参考になることがあります。当記事では、廃業を決断したある中小企業経営者、大島秀俊さん(51歳、仮名)の廃業にまつわるエピソードを紹介します。
大島さんの事業は、日本で捨てられた自転車をアップサイクルするという革新的なアイデアから始まりました。中古の自転車を一つ一つ丁寧にカスタマイズし、フレームからサドル、グリップ、タイヤに至るまで、さまざまな色やスタイルで海外市場に向けて販売するものでした。
新型コロナウィルスが落ち着いたあとで…
事業の始まりは順調で、大島さんのビジネスは環境に優しく、持続可能な社会への貢献という点で多くの称賛を受けました。しかし、突如として新型コロナウィルスの影響が全世界を襲い、彼のビジネスも例外ではありませんでした。すごもり需要が中心の消費社会に変わり、自転車のニーズは海外でも大きく下がりました。
大島さんは人員削減などを経てなんとか新型コロナウィルスの蔓延期間を乗り切ります。しかし、蔓延が落ち着き、人々が外に出だし、これから盛り返すというところで小さな問題がいくつも出てきました。
一つ目は原油高や海外における紛争による物流コストの増加です。二つ目は人手不足。人員削減をしたことがここで跳ね返ってきました。あらたに採用しようとしても、賃上げのプレッシャーから思うようにいきません。そして競争の激化です。大島さんがビジネスを始めたあとに、いくつもの競合企業が生まれてきました。
「小さな要因が積もり積もって、損益分岐点が想像以上に上がってしまいました。以前と同じやり方でやっても利益が上がりにくい構造になっていることに気付いたんです」と大島さんは説明します。
投資して事業拡大をするか
特に、大島さんのビジネスは労働集約的で、効率的な生産を実現するためには規模の拡大が不可欠でした。しかし、投資の見返りが見込めない状況で、規模拡大への一歩を踏み出すことはできませんでした。「この事業は自分が大好きな自転車にまつわる仕事がしたいという気持ちで始めたものです。趣味の延長だったものを、少しずつ大きくしていった感じです。細かく収益について考えてもいませんでした。その中で大規模な投資をするのはちょっと冒険ですよね」と大島さんは悩んだそうです。
結局、ビジネスの規模拡大に対する不安が、彼を踏みとどまらせました。
黒字のうちに廃業を決断
そんな中、大島さんはある決断をします。それは、まだ事業が利益を出しているうちに、自ら廃業を選択するという勇気ある決断でした。彼は、自分の事業にこれ以上の将来性を見出せず、会社が苦境に立たされる前に、終止符を打つことを選んだのです。
「黒字であるといっても、ちゃんとした勝算がなければ大規模投資なんかできません。だからといって何もせずに踏みとどまってもじり貧でしょう。だからむしろ廃業するという前向きな行動を取ったつもりです」と大島さんは当時の気持ちを説明してくれました。そして、「私の場合は、趣味としての自転車への情熱から始めた事業が、大規模化の圧力に耐えられなかったということです」と笑います。
会社を続ける上での「勝算」をどう見極め、どのタイミングで撤退するかということでだにゃん
廃業はある意味、成功でもある
廃業は失敗ではなく、ある意味では閉鎖の成功です。それは、自らの手でビジネスの未来を決定し、新たな道を模索する機会を得ることを意味します。
ビジネスの世界では、変化は常にあります。時には、その変化に対応するために勇気ある決断が求められます。しかし、その決断が新たな未来への扉を開くことになるかもしれません。この先の勝算が見えない場合でも、なんらかのアクションを起こすことが大事ではないでしょうか。その一つが廃業という選択肢もあるということを、大島さんのエピソードは教えてくれました。
最後に、印象的な大島さんの発言を2つ紹介します。
「私がこのビジネスを始めたのは、単純に自転車が好きだったからです。しかし、好きだけでは乗り越えられない壁があることを痛感しました。廃業を決めたのは、自分でも驚きましたが、これが現実を直視した結果です」
「廃業は終わりではなく、新しい始まりだと考えています。今までの経験を生かし、次なるステップに進む勇気が私にはあります。失敗を恐れず、また新たな挑戦をすることが、私の生き方です」