法人を廃業して「個人成り」をするほうが良いときがある?

中小企業がその将来性を考えて会社をたたむ場合、通常は廃業という形を取ります。廃業とは会社が消滅してしまうこと。経営者、特に創業者にとっては自分がなくなってしまう感覚になります。会社を廃業しても、経営者自身は仕事をし続けることもあるでしょう。そこで、「個人成り」というやり方があるのはご存じでしょうか。当記事では、個人成りについて、どのような有効かを考えてみます。

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法人成りと個人成り

ビジネス推進する主体を変えるケースとして、個人事業主から法人に変わる「法人成り」と、法人から個人事業主に代わる「個人成り」があります。

法人成りとは、個人事業主が、法人としての地位を得るために法人(会社)を設立することを指します。具体的には、個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、事業活動を法人名義で行うように変更することです。このプロセスを通じて、事業は法人格を有する組織となり、法律上の主体として独立します。

法人成りのメリットは以下のようなものがあります。

法人成りのメリット

法人成りのメリットは、個人事業主に比べて社会的信用が高いことが一つ目のメリットです。個人事業主との直接取引をしない企業もあります。法人格を取得することで、そのような企業との取引も可能となります。

法人成りにはまた、税金面のメリットも数多くあります。なんといっても自分の所得が給与になります。会社としては、給与所得控除を使えるため、結果的に税額が安く済みます

この給与を渡す相手は一人に限りません。家族を従業員とした場合は、その家族への給与を払うことで、所得を分散することができます。一人に多くの給与を渡すよりも、家族で分散することで、発生する所得税も減らすことができます。

法人の税率は上限が実効税率33%に対して、個人だと最高税率は55%(所得税+住民税)です。このことからも、給与として渡すメリットが感じられるでしょう。

さらに、仕事での失敗は、個人資産に直結しないこともメリットです。好ましいことではありませんが、会社として赤字だとしても役員報酬や給与を支払うことが可能で、生活面の一時的な安定にも寄与します。

そして、法人は個人とは異なり、永続性を持つ組織です。そのため、経営者が変わっても法人としての活動を継続することができ、事業承継が容易になります。

法人成りを検討する基準

どのようなときに法人成りを検討すればよいのでしょうか。税金面でのメリットを考えたときに、利益(事業所得)800~1,000万円超見込めることが法人化検討の目安の一つでしょう。利益が800万円を超えてくると、所得税・住民税といった税金の負担額が、個人事業主であるよりも法人のほうが低くなる可能性が高いことがその理由になります。

廃業して個人成りをするメリット

法人成りは、事業が拡大していく際に検討するものですが、反対に事業が縮小してくこともあるでしょう。廃業を検討している中小企業がまさにこのケースです。

会社の社会的信用は、個人としてある程度獲得できている場合、個人成りによって信用面で不都合をこうむることはあまりないかもしれません。また税金面でのメリットが大きくなります。

一つ目は、所得税と法人税です。

個人事業は所得税で税金の計算がされます。所得税は超過累進税率であり、所得の金額に応じて、税率が5%~45%で所得が高いほど税率が高くなります。一方で、法人は法人税で税金が計算され、一律15%・23.2%で計算をされます。

つまり、個人事業と法人を比較すると所得が低い場合には税率が5%~で所得税の方が低い税率となり、個人成りのほうが有利になる場合があります。

住民税でのメリットもあります。この場合の視点は、個人事業と法人とで最低税額が異なる点です。業績次第にはなりますが、最低限支払うべき税金は、個人事業だと5,000円程度です。一方、法人が支払うべき法人住民税均等割(事業所などが所在することで課税されるもの)は、70,000円程度です。これは法人が赤字でも毎年支払うべき最低金額です。

事業税としてのメリットは、個人事業の場合、所得から無条件で290万円が所得から控除されることです。

ほかにも、法人時代に支払っていた厚生年金についても企業負担分がなくなるというメリットがあります。

個人成りを検討する基準

上記を踏まえた結果、税金面を考えると、利益が800万を割りそうで、回復の見込みがないときが個人成りの検討のタイミングの一つです。また、従業員が全員退職して一人になった時もそのタイミングです。

そういう時には、法人を継続していくと下記のようなデメリットが出てきます。

  • 法人税実効税率の下限は26%であるため、税金が個人所得税より高くなる
  • 法人を維持するには決算処理費用や固定でかかる税金(住民税均等割)がある
  • 法人の運営には何かと法律や制度が伴うので手間がかかる
  • 社会保険も労使折半なので、個人負担と同額を法人で支払う必要がある。

規模が小さくなってくると、煩わしい作業や、高い税金負担から解放されつつも、元経営者一人で仕事を継続していくことができるのです。これが、会社を廃業して個人事業主になる個人成りです。

まずは個人成りすべきか税理士に相談してみるとよいにゃん

個人成りのデメリット

廃業して個人事業主を検討する前に、税制面のデメリットについても理解しておきましょう。

それは経費の扱いです。自身の役員報酬や退職金、生命保険などを経費として扱えません。もし利益が大きく出てくると、所得税などの徴収額が上がっていきます(累進課税)。

廃業して個人成りするという選択肢

個人成りした結果、かなり身軽になります。個人事業も記帳や申告は行わなくてはなりませんが、その量や煩雑さは法人の比ではありません。

決算をちゃんとやってくれれば、税金面での柔軟性を持たせるよ、というのが国の姿勢な気もするにゃん

廃業という言葉が強すぎて二の足を踏んでしまうことはあるでしょう。法人を設立したときは、会社を発展・継続させるという意気込みをもって取り組むため、何が何でも会社を維持しようと考えるのも自然なことです。

しかし、「個人成り」という豊富があり、そのメリットも考えてみると、円満廃業の一つの形であると思いませんか?

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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