廃業は理由だけでなくタイミングも大事
日本に360万社あると言われる中小企業。その社長の中には、「社長のやめどき」や「会社のたたみ時」を考えている人たちも多くいます。しかし、事業承継が可能な場合は別として、そのやめ時がむつかしいと感じている人たちが多いのも事実。
この「いつ廃業?」問題は昔からある課題ですが、実は、会社の「たたみ時」はとても大事です。やり方次第で、幸せな結末にも、そうでない結末にもなります。
中でも、「赤字経営ではあるものの、まだ資産超過状態で債務超過ではない」状態の会社は、決断を迫られている状況です。当記事ではそのような会社の経営状態のときを例に、会社のたたみ時を考えてみます。
いかにうまく逃げるか。すぐに撤退を検討すべし
中小企業が赤字経営をしている状況とは、その法人が収益を上げることができず、支出が収入を上回っていることを意味します。しかし、この中小企業はまだ債務超過には至っていません。
債務超過とは、法人の負債(借金)が資産(企業が所有する現金、不動産、機械設備などの価値)を上回る状態のことです。この法人の場合、支出が収入を上回ることによる赤字はあるものの、全体として見るとまだ資産の方が負債よりも多く、資産超過の状態にあります。
具体的に言うと、もし今この中小企業が事業を清算し、すべての資産を売却して現金化した場合、その現金で全ての負債を返済した後にもなお余剰資金が残るということです。つまり、企業は赤字経営をしているものの、財務的にはまだ健全で、負債を全て清算しても資産が残るという状態にあると言えます。
しかし赤字状態が続けば、資産超過の状態でさえも崩れ、債務超過が見えてきます。つまり、倒産がちらつくのです。そうなっては廃業できません。なんとか資産を残してきれいに清算するためにも、すぐに撤退を検討するのも方法です。
廃業と倒産・破産の違いはここでわかるにゃん
きれいごとをいったん横に置く
そうはいっても「大事なお客さまがいるから仕事をやめられない」「従業員の生活があるから会社をたたむことはできない」「うちを得意顧客にしている取引先もある」など、そう簡単にはやめられない理由があるでしょう。
しかし、赤字ということは、資金が流出しているということです。会社がいきなり倒産してしまっては、お客様にも従業員にも、そのほかの取引先にも迷惑がかかります。
このような「廃業できない理由」は厳しく言えば「きれいごと」でもあるのです。本当は自分が辞めたくないだけといったこともあります。
追い詰められた時の最後の一手にかけますか?
通常、会社の業績が悪くなると、会社は赤字を解消し、経営を改善するための戦略を立てるでしょう。例えば、不採算部門の見直し、コスト削減、新たな収益源の開拓などによって、将来的には収益性の向上を目指すことができます。
しかし、赤字を続けている状態で、これまでやれてこなかった、またはやっても効果がなかった場合は、そこに理由があります(改革をする人がいない、モチベーションがない、市場が縮小しているなど)。
いまから一発逆転を狙っても、それは簡単にはできないでしょう。とても胆力のいることです。
一発逆転を本当に狙えるような、会社を立ち上げたころの強い情熱や体力は変わらずありますか?自分の本当の気持ちや状態と向き合う必要があるかもしれません。
社長が追い詰められて、最後の手段として何かを試みる場合、その試みがうまくいくことはほとんどありません。困難に直面したときに、思いつきで行動すると、多くの場合、状況をさらに悪化させることになります。世の中には、そうして深刻な問題を抱え込んでしまった例が数多くあります。
苦境からの脱出を試みる行動は、実は計画的な投資ではなく、むしろ危険を伴う賭けに近いものです。奇跡的な逆転成功は、極めて稀な例でしかありません。統計的に見ると、ほとんどの場合、失敗に終わるのが一般的です。
資産を担保にいれて借金によってつなぐ方法もありますが、それによって債務超過・倒産の確立も上がることを考えておきましょう。
確率論で考えると、このタイミングで廃業という考えもあるにゃん
あなたが希望するM&Aの話は降ってこない
「どこかがいい条件で会社を買ってくれないだろうか」
多くの経営者の頭によぎった言葉でしょう。事業承継はいま盛んに叫ばれています。昨今、多くのM&Aサイトが立ち上がりました。そのようなマッチングサイトで華々しく紹介されている成功事例を見ると、「うちもなんとかなるかも」と思うかもしれません。しかし、そこで紹介されている事例はあくまでも一握りの成功事例です。
実際には、M&A・事業承継のポータルサイトを使って告知したり、社長が心当たりのある相手に直接声をかけたりして、専門家とも話しながら地道に相手を探していきます。
それでも、相手方の事業と相乗効果があったり、ある程度黒字化の目途が立たなかったりすると、買い手はつきにくいでしょう。現社長としては、雇用もそのまま引き継いでほしいものです。
本気でM&Aを通じた事業承継を考えるなら、自社の事業を客観的に分析し、買い手がつくような条件を考えなければなりません。漠然と考えている「いい買い手」はありません。相手も商売です。
さらに、現社長も事業に対するこだわりがあると思います。買い手は買い手で、自身のやり方で経営をするでしょう。自分の会社が譲渡したあとに、他人によって好きにされてしまうことは耐えられますか?意外と事業を他人に手渡すぐらいなら廃業したいと考える経営者が多いのも事実です。
「赤字だが資産超過状態」で頼れるのは税理士
今回紹介している状況では、弁護士よりも税理士の出番が増えるでしょう。なぜなら、債務超過になっているわけではないからです。借金を返せないわけではないので、法律の問題に発展しないことのほうが多いでしょう。どちらかといえば、いかに資産を残してうまく逃げ切るかが作戦となるため、税理士の出番が増えることになります。
まずは廃業の計画を立てましょう。スケジュールを引き、やるべきことを洗い出すことで、気持ちもすっきりします。税理士とともに整理して着実に廃業をすすめるスタートラインに立ちましょう。
そのスケジュールに沿って、事業の引受先や顧客の紹介先とも話をつけます。従業員への説明は丁寧にやることがおすすめです。
また、いままでは将来を見据えて「損して得取れ」で採算が合わなくても受けていた仕事もあるでしょう。このような仕事はすぐにやめていきましょう。
「逃げるが勝ち」を知っておく
「逃げるが勝ち」という言葉は、一見ネガティブに聞こえるかもしれませんが、実はとても賢い選択です。現在、廃業を考えているという状況は、決して簡単な決断ではありません。しかし、事業を続けることで生じるリスクや損失を考えた時、時には手を引くことが最も賢明な判断となる場合もあります。
無理に事業を継続し、さらなる負債を抱え込むよりも、今のうちに撤退し、新たなスタートを切る準備をすることが、長期的に見てあなたにとっても、関わるすべての人にとっても最良の選択になり得ます。逃げることで、新しい可能性への道が開けるのです。
会社を清算しても資産が残る今のうちに、勇気を持って、前を向いて廃業の道を進んでみてはいかがでしょうか。この決断が、将来に向けた新たな一歩となるかもしれません。
資産超過での廃業は、戦略的な撤退、戦略的なキャリアチェンジと言ってもいいと思うにゃん