会社を売るなら「顧客の整理」が必要?利益率を高める顧客選別の考え方

会社売却や事業承継を考えたとき、多くの経営者が気にするのは「売上」や「利益」です。
しかし、実際のM&Aの現場では、それ以上に「どのような顧客によって会社が成り立っているか」が厳しく見られます。

無理な値引きや過剰な要求が常態化した顧客、特定の人に依存した取引が多い会社は、数字が良くても評価が伸びにくくなるのでご注意ください。

本記事では、売上至上主義が抱えるリスクを整理したうえで、会社売却を見据えた顧客選別の考え方や具体的な進め方を解説します。

目次

結論:会社の買い手は「顧客の質」を見る

会社売却や事業承継を検討する場面では、「売上規模」や「利益額」ばかりに目が向きがちです。

しかし、実際に買い手が重視しているのは、数字そのもの以上にどのような顧客によって、その売上・利益が成り立っているのか点です。

取引条件が安定しており、特定の個人に依存しすぎない顧客構造は、将来にわたってキャッシュフローを生み出す土台として高く評価されます。

一方で、無理な値引き要求が多かったり、クレーム対応に工数が取られたりといった属人的な関係でしか維持できない顧客が多い場合、表面上の売上が高くても企業価値は伸びません。

「どの顧客と付き合い、どの顧客からは距離を取るか」という顧客選別の考え方を常日頃から持っておきましょう。

なぜ売上至上主義が会社を弱くするのか

多くの中小企業では、「売上を落とすくらいなら、多少無理をしてでも受注したほうが良い」という判断が積み重なりがちです。

この考え方自体は、短期的な資金繰りや従業員の雇用を守るという点では理解できますが、長期的に見ると売上至上主義は、会社の体力を確実に削っていきます。

値引き前提の取引や支払い条件が悪い顧客、追加要望が際限なく発生する顧客が増えると、利益率は低下し、現場の負担だけが増えていきます。

結果として、優良顧客に割くべき時間やリソースが奪われ、本来育てるべき顧客関係が弱くなるでしょう。

顧客構造を俯瞰すると、以下のようにいくつかのタイプに分類できるはずです。

  • 利益を安定的にもたらす顧客
  • 将来性はあるが育成が必要な顧客
  • 売上はあるが負担が大きい顧客

売上の総額だけを見るのではなく、こうした構造を意識することが、結果的に会社の選択肢を広げます。

問題客が組織に与える影響

いわゆる問題客の影響は、単なる利益率の低下にとどまりません。

過度な要求や理不尽なクレームへの対応は、従業員の心理的負担を増やし、モチベーション低下や離職の原因になります。
特定の顧客対応ができる社員に業務が集中すれば、属人化も進み、引き継ぎや組織化が難しくなるでしょう。

買い手の立場から見れば、「この会社は特定の顧客や担当者がいないと回らないのではないか」という不安要素になります。
これは、デューデリジェンスの段階で必ず確認されるポイントのひとつです。

顧客を選別することは、決して冷たい経営判断ではなく、自社の強みや提供価値を正しく理解し、それを評価してくれる顧客と長く付き合うための戦略です。

問題客との関係を見直すことは、企業価値を高め、将来「売る・続ける・きれいにたたむ」という選択を自ら選べる状態を作るための重要な一歩といえるでしょう。

会社売却に向けて顧客選別をする方法

会社売却や事業承継を視野に入れた場合、顧客選別は「売上を削る行為」ではなく、「企業価値を整えるプロセス」と考えることが大切です。

ここでは、買い手から見て評価されやすい顧客構造をつくるための具体的な方法を解説します。

顧客を「感情」ではなく「数字」で整理する

まず行うべきは、顧客を好き嫌いや付き合いの長さで判断するのではなく、数字で整理することです。

具体的には、以下のような項目を一覧化しましょう。

  • 顧客ごとの売上高
  • 粗利
  • 取引年数
  • 支払い条件
  • 対応工数

売上は大きいものの、値引きが多く利益がほとんど残らない顧客や、対応に過度な時間がかかっている顧客は、企業価値の観点ではマイナス要素になり得ます。

この段階で重要なのは、「誰が良い顧客か」を決めることではなく、「自社の利益構造がどの顧客によって支えられているのか」を客観的に把握することです。

売上債権回収期間は業種によっても異なりますが、1〜3ヶ月程度が目安といわれているにゃん

参考:「法人企業統計調査からみる日本企業の特徴」資料2|財務省

買い手目線で「引き継ぎやすさ」を確認する

次に意識したいのが、顧客が将来の買い手にとって引き継ぎやすいかどうかです。

社長個人との信頼関係だけで成り立っている取引や、暗黙の了解で条件が決まっている顧客は、売却後に関係が途切れるリスクがあるからです。

具体的には、以下のような項目を確認しておきましょう。

  • 契約書や取引条件が明文化されているか
  • 業務フローが共有されているか
  • 担当者が複数いるか

属人性の高い顧客については、徐々に関係性を整理・再構築していくことが重要です。

問題客は「切る」ではなく「距離を調整する」

顧客選別というと、問題客を一気に切るイメージを持たれがちですが、現実的には段階的な対応が望ましいケースがほとんどです。

例えば、価格改定を行い、適正な利益が出る条件に変更したり、対応範囲を契約上明確にしたりすることも顧客選別の一貫です。
もちろん、条件変更に納得してもらえず、自然と取引が終了する顧客も出てきます。
一方で、条件変更に納得してくれ、今後も良好な関係を築いてくれる取引先もいるでしょう。

このような顧客との関係や契約を改善していくプロセス自体が、買い手にとっては「経営判断ができている会社」というポジティブな評価につながります。

残したい顧客像を言語化する

顧客選別を進める上で欠かせないのが、「どのような顧客と今後付き合いたいのか」を明確にすることです。

具体的には、業種や規模、取引スタイル、価値観などを整理し、自社の強みを活かせる顧客像を言語化しましょう。
これは、売却時の事業説明資料においても説得力を持ちますし、買い手が事業の将来像を描く際の材料にもなります。

今日の一歩:顧客の見直しをしてみましょう

会社売却や事業承継を意識し始めた段階で、いきなり顧客を切ったり、大きな方針転換を行ったりする必要はありません。

まずは、現状を正しく把握することが「今日の一歩」です。

具体的には、現在取引している顧客を一覧にし、以下のような複数軸で整理してみましょう。

  • 売上額
  • 工数
  • 利益率
  • 精神的な負担
  • 属人性
  • 契約リスク

たとえば、売上は大きいものの、頻繁な修正依頼や緊急対応が発生し、担当者が疲弊している顧客はいないでしょうか。
あるいは、長年の付き合いで契約条件が曖昧なまま取引が続いており、トラブルが起きた際のリスクが高い顧客はないでしょうか。

このような要素は、決算書には表れにくいものの、買い手から見ると将来リスクとして強く意識されるポイントです。

顧客を「良い・悪い」で二分するのではなく、「この顧客は会社にどのような影響を与えているか」という視点で整理することが重要です。
この作業を通じて、自社の利益構造や課題が自然と見えてきます。

会社売却前の顧客の整理・選別についてよくある質問

最後に、会社売却を見据えた顧客の整理や選別について、よくある質問を回答と共に紹介していきます。

顧客選別とは何ですか?

顧客選別とは、単に取引先を減らすことではありません。
売上や利益、工数、精神的負担、属人性、契約リスクなどを総合的に見て、「自社にとって適切な顧客構成になっているか」を見直す経営判断を指します。

顧客を育てる方法はありますか?

はい、あります。

顧客選別は「切る」ことだけが目的ではなく、「育てる」視点も非常に重要です。
例えば、価格や対応範囲を明確に説明し、自社の提供価値を理解してもらうことで、無理な要求が減り、良好な取引関係に変わるケースも少なくありません。

まとめ

顧客選別は、会社売却のためだけの特別な施策ではありません。

売上や工数、利益、精神的コスト、属人性、契約リスクといった要素を整理することで、自社の本当の強みと課題が見えてきます。
問題のある顧客を一気に切るのではなく、条件の見直しや関係性の再構築を行うことで、企業価値は着実に高まるでしょう。

顧客構造が整った会社は、第三者への売却、事業承継、ポジティブな廃業といった選択肢を自ら選べる状態に近づきます。

顧客を見直すことは、会社の寿命を縮める行為ではなく、経営の自由度を高めるための重要な一歩です。

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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