M&Aや事業承継を考え始めたとき、「これまで行ってきた節税対策はこのままでよいのか」と不安に感じる経営者は少なくありません。
節税は本来、会社を守るための重要な施策のひとつですが、会社売却という局面では、思わぬデメリットになることがあるので注意しなければなりません。
特に、利益を過度に圧縮した決算書は、企業価値を正しく評価してもらえない原因になりがちです。
本記事では、会社売却前に注意したい節税の考え方や、買い手が決算書のどこを見ているのかを整理し、前向きなM&Aにつなげるためのポイントを解説します。
結論:過度な節税がM&Aではデメリットになることも
M&Aを視野に入れた場合、「できるだけ税金を抑えたい」という経営判断が、必ずしも正解とは限りません。
短期的には手元資金を守るための節税策であっても、将来の会社売却や事業承継の場面では、かえって不利に働くケースがあるためです。
M&Aでは、単純な売上規模だけでなく「継続的にどれだけ利益を生み出せる会社か」「財務内容がどれだけ透明か」といった点が重視されます。
過度な節税によって利益が抑えられていると、本来の収益力が正しく評価されず、結果として企業価値が下がってしまう可能性があります。
ポジティブな意味での廃業や次のステージへの移行を考えるのであれば、「節税ありき」ではなく、「将来の出口戦略を見据えた財務の整え方」を意識していきましょう。
過度な節税対策が企業価値を下げる理由
多くの経営者が節税に力を入れるのは当然のことです。
利益が出れば税金が増え、手元資金が減るという感覚は、特に中小企業では強くなりがちでしょう。
そのため、役員報酬を高めに設定したり、不要とは言えない経費を積極的に計上したりして、意図的に利益を圧縮しているケースも少なくありません。
しかし、M&Aの買い手から見ると、利益が出ていない会社は「稼ぐ力が弱い会社」と映ります。
実態としては節税の結果であっても、その背景を一つひとつ説明し、理解してもらうには時間と労力がかかります。
場合によっては「本当に利益体質に戻せるのか」「オーナー依存の経費が多すぎないか」といった疑念を持たれ、評価額の引き下げにつながることもあります。
また、過度な節税は財務の透明性を損なう要因にもなります。
決算書が実態を反映していないと、デューデリジェンスで修正項目が多発し、交渉が長期化したり、最悪の場合は取引自体が見送られたりするリスクもあります。
「きれいな決算書」は、それだけで買い手に安心感を与える重要な材料です。
長年会社を守るために行ってきた節税が、最後の出口であるM&Aの場面で足かせになるのは、経営者にとって本意ではないはずです。
だからこそ、将来的に事業をどう終わらせたいのか、誰に引き継ぎたいのかを見据えたうえで、節税と利益のバランスを考えることが、結果的に「納得感のある廃業」や「前向きな事業承継」につながります。
会社売却前に避けたい節税対策3つ
M&Aや事業売却を意識し始めた段階では、「これまで有効だった節税策」が、むしろ企業価値を下げてしまうことがあります。
ここでは、会社売却前に特に注意したい代表的な節税対策を整理します。
過度に高い役員報酬の設定
節税目的で役員報酬を必要以上に高く設定している場合、会社の利益は恒常的に圧縮されます。
買い手側が「役員報酬を適正水準に戻せば利益は出る」と理解することもありますが、その前提説明には根拠資料や調整作業が必要です。
また、オーナー個人に依存した報酬設計は、引継ぎ後の経営体制を想像しにくくし、評価額の減額要因になりやすい点にも注意が必要です。

私的性格の強い経費の計上
交際費や車両費、通信費など、事業との関連性が説明しにくい経費が多い決算書は、買い手に不安を与えます。
「実態としては問題ない」と考えていても、第三者が見たときに合理的な説明が難しい支出は、デューデリジェンスで指摘されやすく、結果として調整後利益を引き下げられることがあるので注意しましょう。
節税を優先した不要な設備投資
決算対策としての駆け込み設備投資も要注意です。
将来の収益に結びつかない設備や、明らかに稼働率の低い資産は、買い手から見ると「管理コストがかかる資産」に映ります。
節税効果だけを目的とした投資は、M&Aの評価においてプラスにならないどころか、マイナス評価につながる可能性があります。
会社売却前にできる「決算書の整え方」
会社売却を成功させるために重要なのは、「節税をやめること」ではなく、「買い手が理解しやすい決算書」に近づけていくことです。
ここでは、売却前に意識したい決算書の整え方を解説します。
利益の実態がわかる状態を作る
まず意識すべきは、利益の実態がわかりやすい状態を作ることです。
役員報酬や経費のうち、オーナー個人に依存している部分と、事業として本来必要なコストを整理し、説明できる形にしておきましょう。
これにより、買い手は「引継ぎ後の収益イメージ」を描きやすくなります。
数年分の利益を安定させる
次に重要なことが、数年分の利益を安定させることです。
単年度だけ利益を出すのではなく、可能な範囲で数期にわたり一定水準の利益を確保しておくことで、「一過性ではない収益力」が評価されやすくなります。
これは売却価格だけでなく、交渉の主導権にも影響します。
また、買い手側は決算書を見る際、単なる数字だけでなく「なぜこの数字になっているのか」という背景も重視します。
数字が多少控えめでも、透明性が高く、再現性のある利益構造であれば、評価されるケースは少なくありません。
会社売却前の決算書は、節税の成果を誇示するためのものではなく、次の経営者にバトンを渡すための「説明資料」でもあるにゃん
会社売却時に見られる決算書についてよくある質問
M&Aや事業売却を検討し始めると、「決算書のどこを、どこまで見られるのか」という点が気になる方は多いでしょう。
ここでは、経営者からよく寄せられる質問を回答と共に紹介していきます。
- 会社売却時には決算書のどの部分を特に見られますか?
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買い手が最も重視するのは、実態として、どれだけ安定した利益を生み出せる会社かという点です。
そのため、損益計算書における売上や利益額はもちろんですが、それ以上に注目されるのが利益の「中身」です。具体的には、役員報酬の水準や外注費や人件費の構成、交際費や雑費の割合などを通じて、オーナー個人に依存した支出がどれくらいあるかを確認することも多々あります。
- 会社売却時に過去の決算書はどれくらいの期間まで遡って確認されますか?
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一般的には、直近3期分の決算書を提出・確認されるケースが多く見られます。
ただし、業種や事業規模、成長フェーズによっては、5期程度まで遡って確認されることも珍しくありません。これは、単年度の数字ではなく、利益や売上の推移を通じて「安定性」や「一過性ではないか」を見極めるためです。
例えば、直近1期だけ利益が急増している場合、その要因が一時的なものなのか、今後も再現可能なのかが問われます。
今日の一歩:経費の内容をチェックしてみよう
会社売却を見据えた最初の一歩としておすすめしたいのが、経費の中身を冷静に見直すことです。
長年経営を続けていると、私的な性格の強い経費や、節税目的で無理に計上してきた支出が紛れ込んでいることは少なくありません。
例えば、「本当に事業に必要だったのか」と自問すると説明が難しい経費や、決算対策として慌てて購入したものの、実際にはほとんど使われていない資産はないでしょうか。
こうした支出は、毎期の利益を圧迫するだけでなく、M&Aの場面では企業価値を下げる要因になり得ます。
すぐに是正できるもの、将来的に整理すべきものを把握するだけでも、決算書の見え方は大きく変わるでしょう。
早めに経費の棚卸しを行い、「次の経営者が見ても分かりやすい数字」に近づけていくことが、前向きな事業承継や納得感のある廃業につながります。
まとめ
会社売却や事業承継を成功させるためには、節税そのものを否定するのではなく、「出口を見据えた節税」に切り替える視点が欠かせません。
過度な役員報酬や私的な経費、節税目的の無理な投資は、結果として企業価値を下げる要因になり得ます。
一方で、決算書の透明性を高め、実態利益を説明できる状態に整えておくことで、買い手からの評価は大きく変わります。
早めに経費や決算内容を見直し、次の経営者にとって分かりやすい数字を用意することが、納得感のあるM&Aや前向きな廃業への第一歩です。



