司法書士が語る、「廃業で悩みすぎない」大切さ(専門家インタビュー)

司法書士が語る、「廃業で悩みすぎない」大切さ(専門家インタビュー) 柴家マユミ 司法書士 / 起業コンサルタント

司法書士は、主に相続手続きや債務整理、会社設立手続き、不動産登記や商業登記などの法律行為に関する手続きや書類作成を行う専門家です。

会社をたたむことを考えている企業や経営者にとって、司法書士は、会社の解散・清算や債務整理、不動産取引など、さまざまな手続きで強力なサポートを得ることができる存在です。

法律上の手続きを専門におこなう専門家から見た廃業とはどのようなものか、司法書⼠の柴家マユミさんに聞きました。

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司法書士は法務手続きのプロ

円満廃業ドットコム 編集部(以後、「編集部」):
柴家さんは、司法書士歴も長く、会社設立に関しては250社以上という実績をお持ちです。その分、「会社をたたむ」という廃業に関しても向き合ってきていると思いますが、経営者・事業のオーナーからはどのような相談がありますか?

柴家マユミさん(以後、「柴家」):
私のところに相談が来る例としては「会社を作ったけれどもちょっとうまくいかなくなってしまった」ケースや「年齢を重ねてそろそろ自分の会社を終わりにしたい」いうケース、さらに「新たに別の事業始めるから、こっちの事業はそろそろ閉めようかな」といった例があります。

編集部:
なるほど。どのパターンも解散登記が必要ですし、別会社を立てる場合は会社設立の登記も必要ですね。ほかにも廃業する会社の状況によっては、不動産取引や、債務整理も発生しますね。

柴家:
はい。登記簿閉鎖の手続きとして、解散登記・清算結了の登記など、幅広いです。さらに遺産分割なども廃業の仕方によっては関係してきます。

編集部:
どのような形で、廃業や会社清算の相談が来ますか?

柴家:
普段からコミュニケーションが取れている経営者さまは、日々の話の中で相談いただけます。それ以外のケースでは、「弁護士さん(または税理士さん)からこう言われたんだけど…」という場合が多いです。私たち司法書士は、法務の手続きに関してはプロです。一方、弁護士さん、税理士さんは廃業の手続き自体はあまりやりません。

編集部:
つまり、手続きをどのタイミングで司法書士に依頼すればよいかを、関係者の誰も知らないケースがあり得るということですか?

柴家:
その通りです。このため、私も日常的なコミュニケーションを常に心がけています。

悩んでも仕方ない。「廃業」にネガティブな意味付けは不要

編集部:
会社の清算の相談に来る社長さんや経営者・事業主さんは、多くの手続きを目の前にして大変ですね。

柴家:
大変ですが、それは「ただの手続き」と捉えることもできます。私は、「廃業」に関してネガティブな意味付けをし過ぎている方が多いように思えます。誤解を恐れずにいうと「もう少しポップに考えてもいいんじゃない?」と。

会社経営はとても大変なことですし、さまざまな苦労があります。しかし、起こってしまっていることに対して悩んでも仕方ないです。次に進む方法を考えることが大事だと思っています。

会社を作ったら絶対に続けないといけないわけでもありません。会社を作ったら、それはいろいろな想定外が起こるのは当たり前です。そういう場合に備えて、解散手続きはもちろん用意されていますし、会社を解散したからといって次に会社を作ってはいけないというルールもありません。

廃業後によく発生する相続に関しても、「いつかは必ず起こること」と捉えてもいいのではないかと思っています。大事なのは、「じゃあ何ができるのかな」と考え、準備していくことではないでしょうか。

編集部:
円満廃業ドットコムも「円満」というキーワードで廃業をポジティブに捉えようと考えていますが、それは私たち自身も従来「廃業」に重い意味を付けすぎたという反省もあります。

ライトに作ってライトに廃業した話

編集部:
実際に軽い感じで創業・廃業したケースはありますか?

柴家:
友達どうしで、ノリで起業したみたいなケースは割とあります。とある流通業のケースでも友人同士で起業されました。その事業で目指したいことの価値観が2人の間で合ったようでした。しかし、なかなかビジネスがうまくいかなくて、そのうち2人の間でも意見の衝突が出るようになったようです。そこで、傷が深くなる前にいったんリセットしようということで廃業されました。不協和音が鳴り出してから廃業するまでのスピードは速かったと思います。債務も自分たちで何とかして、スムーズに会社をたたみました。

ただし、「これが良いやり方だ」と言っている訳ではありません。それでも無策のままズルズルと行くのではなく、次への道筋をつけて廃業に動くということは良いことだと思います。

編集部:
日本には放置されている会社が多いというデータがあります。残しておいても大きなデメリットがあるわけではないと考えられているからです。ただし、他で新たな事業をしようとしたりした場合は、「別の企業で役員登記されていないことを証明する」という話は出るかもしれません。そう言った場合に備えて、きれいに廃業しておくことは必要ですね。

柴家:
その通りです。株式会社は12年、社団法人は5年間何も登記をしないとみなし解散とされてしまいます。10年に1回は株式会社なら必ず登記を入れることになっています。やっていない場合は動いていない会社だと、法務局にみなされてしまいます。「解散したつもりなかったんですけど」というようなご相談をいただいて、継続の登記を司法書士がするケースもあります。

編集部:
自分たちでコントロールをもって廃業するのか、継続するのはハッキリさせておいたほうが良いということですね。

柴家:
はい、自分たちで資産を残して廃業しておくのが良いですね。放置されたままの状態でもし経営者がなくなった場合は、親族がそれを次いでどうなるでしょうか。非常に面倒になります。相続や名義変更関連で揉めないためにも、自分の手で解散したほうがよいです。こう考えると、廃業を意識して起業するやり方も一つかもしれません。

編集部:
働き方改革が進んで、サラリーマンの副業が増えつつある今、そのようなライトな企業・廃業のケースは今後もっと増えそうですね。

自分がどうしたいかが大事。他人の話を鵜吞みにしない

編集部:
会社をたたもうか、事業承継させようか悩んでいる経営者に向けてのアドバイスはありますか?

柴家:
私は経営者さまが「自分の会社をどうしたいのか」が大事だと思っています。経営者同士の会話で聞いたことに振り回されず、ご自身の考えを大切にしていただきたいなと。やはりプロである士業のパートナーがいるといいと思います。多くの人にとって廃業は初めてのことです。自分の気持ちも楽になるのではないでしょうか。

編集部:
なるほど。多くの人にとって廃業は初めてでも、プロである士業にとっては、何度もやっていることですね。廃業という大事な決断だからこそ、1人で悩んでいるよりもプロに相談するべきと。

柴家:
はい。だからこそ、いろいろなパターンや考え方をご提示できると思います。

専門家 プロフィール

司法書士が語る、「廃業で悩みすぎない」大切さ(専門家インタビュー) 柴家マユミ 司法書士 / 起業コンサルタント

柴家マユミ
司法書⼠ / 起業コンサルタント

中央⼤学法学部を卒業後、司法書⼠事務所に勤務しながら資格取得の勉強をし、試験トップ合格。
司法書士歴17年。250社以上設立、補助金のサポートは50社以上。
会社の登記、契約書作成等の法務業務に携わる傍ら、⾃⾝の起業経験を⽣かし、起業したい⽅へのコンサルティングもおこなう。

 エマニャン

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円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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