事業承継で時間を要した2つのこと

事業承継で時間を要した2つのこと

事業承継の経験者たちに話を聞くと、みな一様に「想像以上に時間がかかった」と言います。事業承継は組織の引継ぎであり、影響範囲は先代と後継者の2人の間にとどまりません。事業承継の計画書を実際に作ってみると、その幅広さ気づくことができます。なお、中小企業庁が出す事業承継ガイドラインなどが参考になります。本記事では、事業承継に時間がかかった2つのケースを紹介します。

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後継者が覚悟を持てるまで

飲食業を複数店舗経営する大城正太郎さん(58歳、仮名)は、店舗運営を任せてきたナンバー2の山口さん(32歳、仮名)に事業を継承しようと考えました。山口さんは、店舗の運営をスムーズに回すために欠かせない人材で、これからの事業を任せるにはうってつけの人材でした。

ところが大城さんが山口さんに、「後を継いでほしい」と打診すると「少し考えさせてください」と回答を保留されます。「前向きに受けてくれると思ったんですが…。彼にとってもとてもいい話だと思ったんですけれど…」と大城さんは話しますが、実は山口さんは独立を考えていたのでした。大城さんは粘り強く説得を続け、承諾を得ることができましたが、問題はここからでした。

本当にあとをうまく引き継いでくれるのか、運営はスムーズにいくのか、大城さんはこの点が心配です。そのため、このタイミングで山口さんを社長にしたり、株を山口さんに渡したりするわけにもいきません。「やっぱり跡を継ぐのを辞めると言い出すのではないか」という心配をしながら大城さんは事業継承に必要な引継ぎ作業を始めました。

山口さんの場合は、最終的に事業を引き継ぎ、いまは社長として事業運営をしています。株も一部譲り受けました。打診を受けてから社長になるまで、実に5年。山口さんは当時の心境を次のように振り返ります。「先代の強い押しに負けて引き受けたものの、自分は本当にここでやっていくべきなのだろうか、という迷いが残っていました。いつ正式に社長になるのかもはっきりせず、当時は株主でもありませんでした。私がちゃんと引き継げるかどうか、覚悟を持っているのかどうかを、先代も私にお願いしたものの、まだ見極めていたんでしょうね。結果的に覚悟を持つのにとても時間がかかってしまいました」(山口さん)。

事業承継では、早めに準備し、後継者本人にその気になってもらうことが大切であり、覚悟を持つために要する時間は、想像以上にかかるケースもあります。大城さんのケースは、後継者が独立を考えていたタイミングでもあったため、より時間がかかってしまいました。

引継ぎは「ノウハウの伝承」だけではない

事業承継にあたっての引継ぎに時間がかかるのは「ノウハウの伝承」だけではありません。一般的に、事業承継には5~10年かかると言われています。

小さな工房で伝統工業を営む柴崎恵一さん(70歳、仮名)は、その工房で20年間一緒に働いてきた倉川さん(38歳、仮名)に事業承継しようと考えました。しかし、倉川さんは高校卒業後にこの工房でモノづくりをずっとやってきた人です。「私はモノづくり以外を知りません。数字も素人。経理が言っていることの意味が当初はわかりませんでした」と倉川さんは当時の状況を振り返ります。

「倉川はこれまでずっと横で見てきたから大丈夫だろうと思ったのです。引継ぎに対する考え方が完全に甘かったですね(笑)」と篠崎さんは苦笑しながら話してくれました。

柴崎さんは倉川さんとともに、外部コンサルタントの助けを借りながら、事業承継の計画を立て、それにしたがって一つ一つ課題をクリアしてきました。倉川さんは「この作業のなかで経営のことが少し分かるようになった気がします。また第三者が入ることで、お互いの気持ちのズレを修正しながら進めることができました」とそのメリットを語ります。

事業継承は単なる引継ぎではない

事業承継には事業承継計画を立てるとよいでしょう。計画には、承継時期や方法、後継者の役割や業務移行のスケジュール、財務計画などを含める必要があります。計画は、専門家のアドバイスを仰いだ上で、しっかりと作成します。

後継者とのコミュニケーションも欠かせません。事業承継には、後継者との信頼関係が必要で、定期的な面談や報告を行い、情報共有をすることで、後継者の成長を促す必要があります。

税務や法律面の手続きも、初めてのことばかりでしょう。株式の譲渡にかかる税金対策やその資金調達、会社法などの法的問題をクリアすることも重要です。専門家のアドバイスを仰ぎながら、適切な手続きを行いましょう。

事業承継は、相手あってのことなので決裂することも含めどう転ぶかわかりません。一方で廃業することも視野にいれた準備も必要です。

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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