調査からわかった、事業承継について子どもが考えていること

2021年に日本政策金融公庫総合研究所による「子どもの事業承継意欲に関する調査」結果が発表されました。

この調査からは、事業承継について子どもが考えていることが垣間見える、とても興味深いものになっています。

当記事では、事業承継について子どもたちの考えを見ていきます。

目次

事業承継に関してやっぱり無関心は多い

当調査では2万人に事前調査を行い、そこから832人に対して詳細調査をおこなったものです。

親が会社を経営している人に対して、承継者、承継決定者、後継予備軍、無関心層、未決定層の5つのカテゴリーに分け、それぞれの傾向を調査しています。

承継者  :親の事業を承継した人
承継決定者:親の事業を承継することが決まっている人
後継予備軍:親の事業を承継したい、承継してもよいと思っている人
無関心層 :親の事業を承継するつもりはない人
未決定層 :親の事業を承継するかどうか、まだ判断できない人

後継者が未定のケースでは、その多くは子どもが親の事業に無関心であることがわかりました。

具体的には、父や義父の事業の50%以上、母や義母の事業の37-46%が「承継するつもりはない」と回答し、理由は
「事業経営に興味がない」
「必要な技術・ノウハウを持っていない」
「自分は経営者に向いていない」
などが挙げられています。

また、親の事業を承継しない場合の先行きについて、無関心層の30%が「(第3者への事業譲渡をせずに)廃業する」と回答しています。

実際に承継するのは50歳過ぎてから

実際に事業を承継する年齢に傾向はあるのでしょうか。年齢層別で考えてみましょう。

当調査によると、承継者は「50歳代」「60歳代」の割合が32.6%、36.5%と、約7割は50歳過ぎてからの承継となっています。

承継決定者は「30歳代」が35.9%、後継予備軍は「18~29歳」が39.5%で最も多くなっています。無関心層と未決定層は「18~29歳」がそれぞれ28.1%、35.3%で最も多いのは若いゆえに無理もないでしょう。

つまり、30代のころから承継を決定させ、経験を積んで50代で承継というパターンがやはり王道というところでしょうか。

承継する人としない人の違いはどこにある?

事業を承継する人はどんなことを考えていて、承継しない人とどの点が異なるのでしょうか。

この調査結果から見えてきたことは、「承継者」は事業への愛着から事業を継ぐことを決定し、「承継決定者」や「後継予備軍」は事業の魅力や自身の能力発揮を重視していることでした。

「無関心層」は事業経営への興味の欠如や能力不足、「未決定層」は親とのコミュニケーション不足を理由に承継を避けているようです。

「承継決定者」や「後継予備軍」は親の事業についての知識や経験が豊富で、事業の状況が良く、必要な資格を取得しています。「無関心層」や「未決定層」は親の事業についての具体的な利点や困ったことが特になく、資格取得の意欲も低いです。

「承継決定者」や「後継予備軍」は収入と仕事のやりがいを重視し、事業承継後にこれらが高まると期待しています。一方、「無関心層」や「未決定層」は私生活とのバランスを重視しています。

事業を継ぐ理由、継がない理由

「承継決定者」や「後継予備軍」は、「親の事業についての魅力」が継ぐ理由の上位です。「良い事業だから継いでもよいと考えている」ということでしょうか。

一方、すでに継承をした人たちは、事業に愛着があるから継いだようです。「廃業させたくなかったから」「ほかに継ぐ人がいなかったから」「幼いころから継ぐつもりだったから」などがその理由です。その事業がどうであれ、「自分が継ぐ」という、より主体的な理由により継いでいる点が興味深いところです。

「ほかに継ぐ人がいなかったから自分が継いだ」という理由は、なんとトップの25.8%。「承継決定者」「承継予備軍」の人たちが、事業を継ぐための準備を進め、愛着を持てた人が実際の承継者になっていくということでしょうか。

事業を継がない理由はどういうところにあるのでしょうか。

「無関心層」が親の事業を承継するつもりがない理由は「事業経営に興味がないから」が35.4%と最も高く、次いで「必要な技術・ノウハウを身につけていないから」が26.5%、「自分は経営者に向いていないと思うから」が26.2%、「必要な免許・資格を取得していないから」が19.7%となっています。

事業への無関心や能力不足が一つの理由であり、本人の興味ということも言えるかもしれません。しかし、「事業の先行きが不安だから」(16.0%)、「事業経営のリスクを負いたくないから」(15.3%)のように事業経営のリスクを考えて、承継をしないという選択もされているようです。

まとめ

事業承継について考える人々の思考と背景を分析した本調査では、子どもがどう考えているかがわかる非常に興味深いものになっています。

事業の承継を決定している方々や後継者となる可能性がある方々は、事業の魅力や自身の能力を発揮する機会を見出しています。また、親の事業の業況や資格取得状況も良好で、承継後には収入や仕事のやりがいについての満足度が上がると考えていることが明らかになりました。

これらの方々は、親の事業について詳しく、事業を引き継ぐよう要請される経験も多いことが分かりました。一方、事業に対して無関心な方々や承継についてまだ決定していない方々は、事業に対する関心が低く、必要な技術や知識が不足していること、また事業の先行きに不安を感じていることから、事業の承継を考えていないようです。

無関心な方々や未決定の方々は、親の事業について詳しい知識がなく、親が事業を経営していて良かった点や困った点についても認識が低いことが示されています。また、親の事業に必要な資格を取得する意向も低いことが確認されました。

各層の考え方の違いは、仕事に対する価値観にも現れているといえるかもしれません。承継を決定している方々や後継予備軍は「収入」や「仕事のやりがい」を重視していますが、無関心な方々や未決定の方々は「私生活との両立」を重視しています。

これらの結果から、事業承継の意志が形成される際には、事業への理解と関心、事業の業況や自身の適性、そして仕事に対する価値観が大きく影響しているといえるのではないでしょうか。

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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