中小企業の社長の子どもが後を継がない理由

中小企業の社長の子どもが後を継がない理由

「大廃業時代」と言われるように、中小企業の重要な課題として、後継者不足が挙げられています。仮に経営がうまくいっていたとしても、後継者がいないことが理由で廃業を検討しなければならないケースが増加しており、国もこの現状を看過できずに対策を立て始めています。

日本経済の担い手である中小企業で培われてきた技術やノウハウが、後継者不足により消失してしまうのは、大変な損失であることは誰もがわかっているのに、どうして事業の承継が進まないのでしょうか。

本記事では、中小企業の事業承継をテーマに、その担い手をオーナー経営者の子どもに焦点をあてて、なぜ事業承継が進まないのかを考えてみます。

目次

高学歴の子どもたち

運送業を営む、平川和夫さん(65歳、仮名)は、堅実な仕事ぶりから多くの顧客を抱えていました。時には大規模な事業を請け負い、社員は多い時で50名以上をかかえ、事業は順風満帆でした。そんな平川さんには二人の息子がいます。長男も次男も、地元の中高一貫の学校に通い、東京の国立大学へ進学しました。

「二人の息子たちがともに地元の進学校に合格したときは、家族中で喜びました。小学生のころから家庭教師を付け、立派に育ったものだと思いました」と平川さんは当時を振り返ります。中小企業の経営者は、経済的に余裕があることも多く、子どもの教育費に大きな投資ができることが多くあります。

「子供たちが通った学校には寮もあり、地方の名士の子どもたちも通っていました。医師の子息が比較的多かったように思います。その影響からか、次男は医師を目指してなんと現役合格したのです。この時点で、次男は家業を継ぐことはないだろうなと覚悟しました」(平川さん)。

平川さんは事業承継先のターゲットを長男に絞りました。正確に言えば、はっきりと話したことはなく、現社員に継がせることも考えていましたが、どこかで長男が継ぐことを期待していたようです。

デジタル革命による環境の変化

大学を卒業した長男は銀行に就職します。世の中はデジタル革命の波が訪れ、新規参入の会社が既存の業界常識を瞬時に覆しています。長男の仕事は、日本の大手企業を対象とした金融業で、漏れなくデジタル化の影響を受けてはいますが、それでも安定した会社ではあります。

一方、平川さんの会社は、デジタルテクノロジーを駆使して小口配送を担う個人をつないだ新たな仕組みを提供する会社に押され気味でした。そのような状況で顧客を奪われると、多くの社員たちの給与が固定費として頭を悩ませます。

またかつて3Kと呼ばれる職業というイメージもあり、求人募集をかけても若い人の応募がほとんどなくなってきており、定年退職していく人たちの穴埋めができていない状態です。世界の情勢不安を引き金とした原油高による燃料代の高騰は、過去の内部留保をジワリと削り取っていきます。

さらに追い打ちをかけるのが政府からの長時間労働に対する規制です。これまで社員たちには繁忙期は車中で寝泊まりしながらでも頑張ってもらうと、残業代の大幅な上乗せが要求されることや、関係がこじれて訴えられると政府からの勧告・公表という制裁が加えられることになります。

参考:運送業の2024年問題(公益社団法人全日本トラック協会の資料)

こうして次々に追い打ちをかけてくる危機を乗り越えるために、平川さんは昔ながらの事業運営からの脱皮が必要でで、そのような時こそ、こちらの味方として若いエネルギーを発揮してくれる子どもの力が欲しかったはずです。

「広い世界を知り、安定した大企業を選んだ長男にとっては、実家の仕事を継ぐ理由はなかったのでしょう。こちらが言い出す前に、自分は継ぐつもりはないといわれてしまいました」と平川さんは力なく笑います。平川さんはじりじりと利益が減っていき、この先の見通しが立てられない中、清算して資産を残せる今のうちに廃業することを決断しました。

子どもには子どもの人生がある

経営者ならではの経済力を使って、子供たちが立派に成長し、子どもたちが広い世界を見るようになったことで家業に目が向かない、というのはとても皮肉なケースです。しかし、子どもには子どもの人生があります。事業を誰に託すかは、このような変化の読めない時勢においては、さまざまな選択肢を用意しておく必要があるでしょう。

平川さんのケースに限らず、中小企業を継ぎたいと考える若い世代の人は年々減少する傾向にあります。それは、これまで長時間労働を中心とした過酷な労働環境によって経営を成り立たせたことが時代に合わなくなっているという側面もあります。

新しい世代には「もっと働け」「もっと稼げ」「もっと成長しろ」という言葉は酷に映ったりするものです。経営うまくいっていたとしても新しい経営者が見つからなければ会社は廃業せざるを得ません。まずは、これまでの気合と根性の経営スタイルから、ビジネスモデルの転換も視野にいれた徹底した業務効率化を図っていくことは必要でしょう。

これからの世代にはワークライフバランスをキーワードとした「適度な働き方」が求められています。そのうえで、いまの社員や外部への売却も含めた、引退後の会社の引き渡し方を、早い段階から考えておきたいものです。

 エマニャン

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円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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