中小企業の事業承継における悩みの一つは、相続にかかるお金です。中小企業の株のすべて、またはその多くを社長(オーナー)が保持している場合、その世代交代にかかる税的な負担が多くなってしまいます。そのような場合の税的負担を軽くすることのできる政府の制度として経営承継円滑化法があります。
経営承継円滑化法とは
事業承継に伴う税負担の軽減や民法上の遺留分への対応などを支援するための法律です。事業承継に関する総合的支援策を講ずる「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」として、2008年5月に制定されました。
「遺留分」とは一定の相続人が最低限の相続財産を請求できる権利のことだにゃん
経営承継円滑化法とは以下の4つより構成されており、「事業承継の円滑化によって地域経済と雇用を支える中小企業の事業活動の継続を目指す」とされています。
- 事業承継税制
- 遺留分に関する民法の特例
- 金融支援
- 所在不明株主に関する会社法の特例
ちなみに旧ジャニーズ事務所が適用申請して相続税の負担を猶予されていた件は、この経営承継円滑化法に定められている事業承継税制の特例措置でした。
経営承継円滑化法の事業承継税制を活用する際の注意点
経営承継円滑化法の事業承継税制とは、事業承継に伴う税負担を軽減する特例措置のことです。法人および個人事業主にそれぞれ適用することができます。今回のケースは法人を想定して解説していきます。
注意点として、法人は、非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度として制定されていました。これが2018年の改正によって、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限が撤廃され、さらに納税猶予割合の引き上げが行われています。ただし、10年間の特例措置としての位置づけであり、これに必要な5年以内の特例承継計画の提出の提出期日が2023年3月31日であったため、すでにその期日が過ぎてしまっています。2018年に追加された特例分は受けられないと考えたほうが良いでしょう(2023年11月時点)。
まずは「経営承継円滑化法の事業承継税制を活用したい」と税理士に相談するのがよいにゃん
なお、特例ではなく、一般措置を適用する場合は、以下のような条件となります。
経営承継円滑化法の事業承継税制:一般措置
- 事前の計画策定は不要
- 非上場分の総株式数の最大3分の2までが対象
- 納税が猶予されるのは、贈与は100%、相続は80%
- 対象の後継者は株主の中から一人のみ
- 相続時精算課税の適用は、60歳以上の者から20歳以上の 推定相続人・孫への贈与
- 承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要
遺留分に関する民法の特例とは?
相続には「遺留分」という一定の相続人が最低限の相続財産を請求できる権利があります。事業承継の場面では、後継者に遺産が集中するために遺留分に関するトラブルが起こりがちです。そこで、遺留分の特例を適用すると、会社株式や事業用財産などを遺留分の対象から外せるので、後継者へ資産を集中させても遺留分トラブルが起こりません
もちろん勝手にやることはできず、遺留分権利者全員との合意及び所要の手続を経ることが前提になります。この手続きを経ることで、以下の2つが可能になります。
生前贈与株式等・事業用資産の価額を除外(除外合意)
生前贈与した株式等、事業用資産の価額を、遺留分を算定するための財産の価額から除外することができます。これによって、相続後の遺留分侵害額請求を未然に防止することが可能です。
生前贈与株式等の評価額を予め固定(固定合意)
後継者の貢献による株式等価値の上昇分が、遺留分を算定するための財産の価額に含まれないようにすることができます。これによって、後継者の経営意欲を阻害しないようになります。
株主と連絡が取れない場合は?
経営承継円滑化法を事業承継に活用しようとした場合は、どうしても既存株主と連絡をとる必要があります。しかし、なかなか連絡がとれないケースもあるでしょう。会社法上、株式会社は、株主に対して行う通知等が「5年」以上継続して到達しない等の場合、当該株主(所在不明株主)の有する株式の買取り等の手続が可能です。
この手続きを取ることで、しっかりと事業承継を負担なくやることができるようになります。
「大廃業時代」がやってくるといわれるいま、政府もさまざまな施策をこれからも検討してくるでしょう。廃業や事業承継を考えるタイミングで、早めに専門家に相談して、使える制度を使っていけるように情報を集めておくことをお勧めします。