事業承継:後継者のやり方を否定しないことの重要さ

事業承継:後継者のやり方を否定しないことの重要さ

中小企業の事業承継の成功の秘訣は一つではありません。本記事では、成功に欠かせない、後継者のやり方を否定しないことの重要さを考えます。

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創業者と後継者とは考え方が異なる

全国の飲食チェーンを顧客として、食料品の卸売業を営む川辺久雄さん(70歳、仮名)は、事業承継を考え、後継者として息子の貞伸さん(39歳、仮名)を指名しました。貞伸さんは大学で経営を学んできた後継者です。

叩き上げで実績を出してきたオーナーの久雄さんとは経営に対する考え方が異なり、意見がぶつかり合うことが度々ありました。

貞伸さんは「経営は感覚でするものではない」と考え、創業者の久雄さんは「理屈で経営はできない。現場こそが大事だ」と考え、なかなか話がかみ合いません。

経営を学んできた貞伸さんは理論的に戦略や戦術を立てようとしますが、久雄さんにとってはそれが面白くありません。仕事は現場で動いているのだから、机上で数字やデータを組み立てても意味がないと感じてしまうからです。これは数々の現場をこなしてきた経営者ならではの感覚です。その感覚があったからこそ、久雄さんの会社は成長してきたことも否定できません。

久雄さんは「息子に経営を渡した以上、遠慮もあって面と向かって否定することを避けてきました。でも私の考えは息子とは違ったのです。結局、『できるもんならやってみろ』と思って見ていたように思います」と振り返ります。これでは、もし貞伸さんが失敗したときは「ほら言った通りだっただろう」となりがちです。そしてそのような久雄さんの反応に対して、貞伸さんは一層かたくなになってしまいます。

後継者の貞伸さんのほうは「経験や勘で経営ができたら苦労しない」と考えています。さらに大学で専門に経営学を勉強してきた自負もあり、理屈を大切にします。戦略を立て、成果を出すための筋道をきちんと立てて実行に移すことを大切にしています。

「『親父に試されている』という感覚もありました。だからこそ、失敗をしないために緻密に戦略を立てていたのです」と貞伸さんは説明します。

しかし、頭の中で戦略を立ててから動くことになるため、現場判断で条件反射的に動くよりも当然動き出しが遅くなります。瞬発力という点では久雄さんにかないません。これがまた、創業者の久雄さんには「動きが遅い」と感じられてしまいます。

久雄さんが親切心から「こっちのほうが良いと思うよ」と提案やアドバイスをしても、貞伸さんには自身の考えがあります。自分で考えることを大切にするため、アドバイスを素直に受け入れることができません。

中小企業にも必要な経験と理論のバランス

こうしたすれ違いの一番の問題は、両者とも自分のやり方が間違っていないことです。そしてお互いに、自分が正しくて相手が間違っていると思っていることにあります。創業者は実際に結果を出してきました。

しかし、自己流のやり方で失敗してきたこともあったはずです。失敗した事例の中には、もっと理論的に戦略を立てて動いていたら成功できたものがあったかもしれません。

つまり経営には「経験や感覚を活かす」部分と「戦略を活かす」の部分の双方が必要であることが分かります。そのバランスはケースによって異なるでしょう。

事業承継ではお互いのやり方を否定するのではなく、認め合うことが大事です。後継者に足りない経験や勘といった部分をオーナーが顧問としてサポートすれば、後継者の経営者としての成長が早まります。

そもそも、後継者には先代の真似ではなく、自分の力を試したいという思いがあります。そうでなければ、交代した意味がないとも考えています。自分が継いだことによる成果を急ぐきらいもあります。その流れで、後継者が新しい事業展開をやってみたいと言い出すこともあるでしょう。

後継者にとっては、「今の経営状態を踏まえ、より外部環境に左右されない収益構造を作るために、事業の柱を作る」という考えでしょう。創業者も、その背景を理解し、いたずらに不安になることなく任せてみることも必要かもしれません。

特に人間関係がまだ十分にできていない人材が後継者となる場合、先代が一歩引き、後継者が周囲の信頼を得られるように応援する立場を貫くことで、スムーズな世代交代ができるのではないでしょうか。

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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