経営者が悩みぬいた上に判断した廃業であっても、家族が廃業に納得しているとは限りません。廃業にとって発生するさまざまなケースを考え、適切なタイミングで相談し、家族にも納得してもらう必要があります。廃業を経験した家族の視点から、廃業における失敗を考えてみましょう。
想定外の負債によって家を追い出された
単純に「廃業をする」と家族に伝えた場合、家族は「廃業によって自分たちはどのような影響を受けるのか」を心配します。事業主にとっては、想定できたものも想定できなかったものもあるでしょう。同様に家族にとっても想定できなかったことがあります。中でも、済場所が変わってしまったというケースは、後々まで家族の中でわだかまりが残ることが多い事例です。
廃業は、いまやめようと考えている事業を整理し、債務が残らない状態にすることでもあります。銀行口座に残っている金額や、機材・土地の売却などによって、従業員の給料や税金・社会保険料を含むすべての債務を支払って、会社を消滅させます。その際に、想定外の債務が出てくることもしばしば。その債務を支払うために、経営者個人の財産に手を付けなければならないこともあります。
結果として、家を売るといったことはよくあるケースです。それによって、これまでの自宅だったところから出ていかないといけなくなったりするのです。
全てが決まった後でいきなり廃業を言われて納得がいかない
夫が仕出し弁当を作り・配達する会社を営んでいた日比谷光代さん(仮名)は「いまでも廃業のことが引っ掛かっている」と言います。日比谷さんの会社は創業当時、従業員が思うように確保できず、光代さんが毎日手伝っていました。小さな子どもを母親に預け、「おばあちゃんがいつも子どもたちの面倒を見ていた」と言います。
スマートフォンのアプリを使った宅配事業が伸びている中、昔ながらのスタイルは限界に近づいていました。そんな中、「もう廃業の手続きが終わりつつある」といきなり夫から知らされたとのこと。「創業時に子育てで手伝ってくれた母や私に何の相談もなく、いきなり辞めたなんて言われて気持ちの整理がついていません」と光代さんの不満は残ったままです。挙句の果てに「じゃあ、これまでの労働分の賃金を払う」と言われて、余計に怒りがこみ上げたといいます。
「うちの経営がこの先むつかしいことは十分理解しています。それでもひとこと相談があってもよかったのではないでしょうか。育児も投げ出して手伝ったのに、あれば何だったのかと思います」と光代さんは振り返ります。
頭ではわかっていても、納得できない状態を作り出してしまったいま、他にやり方はなかったのでしょうか。廃業に対する相談のタイミングを間違えると、家族の納得感は得られないままです。
廃業後に家でダラダラしている
廃業後に自分がどのような生活をするか想像できていますか?特に男性のかたは要注意です。「家で旦那がゴロゴロしていて嫌だ」という話はよく話題に挙がります。夫が1日中在宅するようになることで、妻のメンタルヘルスや体調が悪化する疾病は「主人在宅ストレス症候群」と呼ばれています。定年後の夫婦によくみられるこの症候群は、どの家庭でも起こりうるもの。特に仕事中心だった人は特に趣味もなく、プライベートで遊ぶ友人も少ないように思えます。家事もそれまでは妻にまかせっきりだったためか、なかなか動く気になれなかったりするでしょう。
家事を手伝うところからスタートという考え方もあります。廃業後に自分がどのような生活をしていくかも考えておくことで、「主人在宅ストレス症候群」を防ぐことができます。事業をたたんだ後の自分の日常生活を計画しておきましょう。