廃業する前に死んではならない理由

円満廃業ドットコム:廃業する前に死んではならない理由

自分の会社を今後どうするか迷いながら、結論を先延ばしにしていることはありませんか?「いつか引き継いでくれる社員が育つだろう」「子どもがいつか継ぐといってくれるだろう」「景気が変わって会社を買ってくれるところがでるかもしれない」といった期待を持ちながら何年も経ってしまっているといったようなことはないでしょうか。

最後の手段として廃業を考えつつも、なかなか踏み切れないのが現状というケースは多いと思います。いたずらに時間だけが経ってしまって、「自分のもしものことが起こったら…」と考えつつも自分ごとになりにくいかもしれません。しかし、オーナー社長が死んだあとの廃業は想像を絶するほど大変なものです。実際に社長が死んでしまった後の会社の清算の例を見てみましょう。

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廃業を決められない理由

最初に、廃業しないまま月日が経ってしまうのはなぜか考えてみます。017年版中小企業白書からは、中小企業の経営者の引退時期は68歳から69歳と読み取ることができます。厳密にいうと廃業とは異なりますが、引退という観点でおおむね近い年齢だと推察されます。

多くの場合、この年齢を過ぎると業績が下がってくるといわれています。理由として考えられるのは、意思決定の勘所やスピードが下がってくることが挙げられるでしょう。時代の流れに沿った需要の把握も難しくなってくるかもしれません。「もう一度業績を上げてから」と思いつつも、頭や体がついていかないのです。早めに廃業というけりをつけないと赤字が膨れ上がってしまい、廃業できずに倒産というリスクをはらんできます。

父が急逝して実情を知った息子

都内の企業に勤めていた岡本哲也さん(仮名)は、プラスチックごみのリサイクル事業を営んでいたオーナー社長の父が急逝し、あわてて会社を辞めて稼業を継ぐことになりました。入社して会社の財務状況を見ても、業績はさほど悪くないようですが、よくわかりません。父の代から会社を支えてきた専務に聞いても要領を得ません。

その後わかったことはさまざまな隠れ債務があったことでした。カード、リース、銀行借り入れなどは想像できましたが、他に友人からの借り入れなどもあったようで、それは専務も把握していなかったようです。社長が急逝したと聞いて、債権回収のために多くの人が押し掛ける状況となってしまいました。

「業績がどうしようもなく悪かったという訳ではないと思います。それにしても帳簿がずさんで、情報を整理することができませんでした。その結果、債権を回収しようと人が押し掛け、社員は次々と退職し、社内が大混乱に陥ったのです。業務が滞り始め、すぐに資金繰りにも影響が出てきました」と岡本さんは振り返ります。

会社として債務超過でもなかったはずなのに、岡本さんの会社はほどなく倒産しました。いきなり社長を任せられた岡本さんにとっても災難だったでしょう。「もう少し早くに引継ぎをしていればと悔やむばかりでした」(岡本さん)。

引く継ぐこと、引き継ぐ人が分からない

岡本さんの会社は、実質的には父が一人でトップ営業によって仕事を取ってくる状況だったようです。得意先も父に対する信用で仕事を発注しているようでした。会社の重要事項の多くが父の頭の中にあったのです。「限られた時間の中で、引く継ぐことも引く継ぐ人わからなかった」と岡本さんは振り返ります。

頼みの専務は、業務を回すことについては詳しかったものの、混乱によって回す業務がなくなってしまってはどうすることもできませんでした。

「父は地元の有力者とのパイプも太く、政治家の支援をしていたりもしたので、そこに頼ろうとも思いました。でも頼り方がわからなかったのです。そうこうしているうちに債権回収の業者が一気に押し寄せた感覚です。結果的に私は、しばらく家族と身を隠さざるを得ませんでした」と語る岡本さんは当時を説明してくれました。会社を取り巻く人間関係を少しでも把握できていたら、結果は違ったかもしれません。

死んだあとに株の価値が一気に下がる

中小企業は「オーナー社長の顔」で仕事している例が多くあります。その場合は、社長がいなくなった場合、その株価が一気に下がってしまいます。岡本さんの株に目を付けて対応しようとしました。しかし、社長がいなくなった会社の株にたいした値段はつきません。会社の価値を正しく伝えられるのは父なのに、その父がいないのです。

「父がいたころは1億円程度の価値はあったと思います。しかし、亡くなった後は1,000万でも買ってもらえません。父が元気な時に事業承継または廃業していればこんなことにはならなかったはずです。」と岡本さんは悔やみます。

それでも起こってしまった場合は

オーナー社長は常に、自分にもしものことがあった時を考えておくべきです。岡本さんの場合は、会社として入っていた生命保険が解約されていたことも不幸でした。廃業が少しでも念頭にある場合は、速やかに手続きをシミュレーションしておきましょう。

もし実際に起こってしまった場合は、以下のような手続きを進めていくことになります。

  • 株主総会で会社の解散決議
  • 解散の登記
  • 財産目録と貸借対照表の作成、承認
  • 公告、催告
  • 清算事務
  • 残余財産の株主への分配
  • 清算事務における決算報告書の作成と承認取得
  • 清算決了の登記

実際は株主総会での会社の解散決議をする前に、廃業すべきかを他の取締役や家族が考えることになります。ここでそれなりに時間を費やしてしまいます。自分に何かあった場合はどうするのか、常に関係者と会話しておきましょう。

そして財務諸表は綱にきれいにしておく必要があります。簿外の債務があると、多くの関係者が迷惑してしまいます。

取引先への連絡は誰がするのかも重要です。進行中の仕事に関してどのように清算するのかは、取引先によって違うこともあります。特に取引量が多いところとは基本契約書などを確認しておきましょう。もし、現時点で結んでいない場合はすぐにでも結びましょう。賠償金の有無や上限を正しくセットしておく必要があります。

清算においては、少しでも財産を残せるよう、売掛金の回収期間を計算しておきましょう。従業員に払うお金や、買掛金との調整も必要です。

廃業する前に死んではならない。決断が重要

このように、オーナー経営者が廃業前に亡くなってしまうと、多くの人が困ります。せっかく廃業という形でなんらかの資産を残せた可能性もあるのに、岡本さんの場合は倒産という形になってしまいました。残された家族のためにも、自分が生きているうちに廃業または事業継承をしておくようにしましょう。

 エマニャン

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円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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