縮小型事業承継とは
「縮小型事業承継」とは、主に小規模な企業が関与する事業承継の形態を指します。縮小型事業承継では、企業の規模を縮小することによって、後継者が管理しやすくなるように事業を再編します。縮小型事業承継は、特に家族経営の小企業や地域密着型のビジネスで見られることが多いようです。
3つの事業を持っていた富山さんの例
社会保険労務士である富山博司さん(66歳・仮名)は3つの事業を持っていました。1つは社会保険労務士の資格を活かした人事コンサルティング事業。2つ目は印刷業・広告代理業で、印刷やデザインと雑誌広告の取次をやる事業です。そして3つ目は、リサイクルショップです。
富山さんは人事コンサルティングや広告代理業を営む中で、オフィス移転のタイミングにあたることもあり、その手伝いもしていたところ、中古家具を引き取ってリサイクルショップ始めていたのでした。「いろいろ手を出しすぎてしまっていて、まるっとすべて継いでくれる人がいませんでした」と富山さんは、事業承継を検討した際の苦労を説明します。すべてが富山さんの人脈と、事業の相乗効果を思いつく富山さんの発想力に依存していました。そのような中で、すべてを引き継げるような人はいなかったのです。
「体力的にも厳しくなってきたので、すべて廃業しようと考えましたが、なんとか世の中に少しでもいいから残したいという気持ちもありました」(富山さん)、
2つ廃業、1つを事業承継
そのような中、富山さんが専門家から提案されたのが縮小型事業承継です。富山さんへの依存度が低い事業をある程度定型化して切り離して譲渡するというものでした。
人事コンサルティング事業は富山さん無しでは成り立ちません。こちらは早々に廃業の決断をします。残るは印刷業とリサイクルショップでした。
リサイクルショップは事業としてギリギリ成り立っていた状況であったため、廃業の決断をします。」いまやリサイクルはスマートフォンのアプリでみんなやり取りしていますよね?大赤字になる前に手を引くのがよいと考えました」(富山さん)。
一方、印刷業は事業としては一番好調でした。「印刷業は、社内に良いデザイナーがいて、そのデザインを皮切りに周辺の印刷や広告デザインの仕事ができます。デザイナー本人は経営者になるつもりはないとのことで、会社を引き取ってくれる人を探しました」と富山さんは振り返ります。その結果、事業拡大中の個人事業主のデザイナーと知り合い、そのデザイナーに印刷事業を譲渡することになりました。
縮小型事業承継のメリット
このような縮小型事業承継は、小規模事業において、以下のような点で非常に有効です。
管理の容易さ
小規模な事業は管理が比較的容易です。後継者にとっては、大規模なオペレーションよりも、縮小されたビジネスの方が扱いやすいでしょう。これは特に、経験やリソースが限られている場合に有利です。また、事業の相乗効果を生むためにはそれなりに広く高い視野が求められます。それが創業者ひとりの資質に頼っていた場合は、分割したほうが承継しやすいのです。
リスクの軽減
縮小型事業承継は、ビジネスのリスクを低減することができます。いわゆる小回りが利くビジネスです。小規模な事業では、資金の必要性が低く、市場の変動に対する脆弱性が減少します。
焦点の絞り込み
事業を縮小することで、より特化し、競争力のあるニッチ市場に焦点を当てることができます。これにより、ビジネスは特定の顧客群に対してより効果的にサービスを提供することが可能になります。事業の選択と集中に関しては、「いまうまくいっているか」「自分がいなくても回っていくか」「将来性はあるか」といった観点で考えていきます。富山さんの事業では、印刷業という一見古いビジネスではありましたが、インターネットを使ったデジタルコンテンツのデザインも請け負うことができたため、残すことを決めています。
後継者の意欲の向上
事業規模が小さく、より取り扱いやすい場合、後継者は経営に対する自信を持ちやすくなります。これは、事業の継続的な成長と成功につながる可能性があります。富山さんのケースでも、新たな事業承継者は、デザインは強かったけれども、人事コンサルティングやリサイクルショップはまったくの門外漢でした。本人の得意な分野を切り出してうまく事業承継できた事例と言えるでしょう。
持続可能性
小規模ながらも効率的な事業モデルは、長期的な持続可能性を提供することができます。資源を効率的に使用し、市場の需要に迅速に対応することが可能になります。富山さんの会社が今後大きくなっていくかどうかは、新しい後継者が自分のやり方で進めていくことになるでしょう。
このように縮小型事業承継は、特にリソースが限られた環境や経験の浅い後継者にとって、ビジネスを安定させ、成功に導くための実用的な戦略です。「会社をたたむかたたまないか」の2択ではなく、部分的に残すという選択肢もあるのではないでしょうか。