廃業という形で事業をたたむ際には、その先の自分のふるまい方も考えておくことが、その後の幸福感を手にするための秘訣です。
「ただの人」になったあなたを待ち受けるさまざまな人間関係の変化を今から予測し、心構えを持っておくことで、廃業後に円満な生き方ができるかもしれません。
廃業によって「社長」でも「事業主」でもなくなる
事業をたたむことによって、あなたはもう社長でも事業主でもなくなります。社長として社員に指示をしていたころは、基本的には社員は自分の言うことを聞いてくれていたでしょう。事業主としての対外活動もあったかもしれません。
例えば、地域の商店街の会長を務めていたかもしれません。事業主として一定の尊敬も集めていた可能性もあります。
しかし、廃業してしまえばあなたもただの人です。人間関係が大きく変わっていくのは間違いないでしょう。廃業後の人生を豊かにするために、人間関係の在り方を見つめなおし、あなたが幸せに生活するにはどうしたらよいのでしょうか。
社長時代は「取引型」「守備型」のコミュニケーション
社長時代は、事業を運営するために主に「取引型」「守備型」のコミュニケーションをとっていた、というケースが多いのではないかと推測されます。
取引型のコミュニケーションとは、情報の交流に焦点を置き、「知らせる・確認する」といったことが中心です。基本的に当事者間の信頼度合いはそれほど高くなく、伝える側と聞く側にきれいに立場が分かれています。このようなケースの場合は、押し付けたり怒鳴ったりといった場合もあったかもしれません。それでも、会社が回るためには必要であったために、取られていたコミュニケーションの手法です。
もう一つの守備型のコミュニケーションは「権力の交流」です。社長が社員に指示する場合、どうしても上下関係があるため、社員はそれを聞くことになります。取引型に比べ、「やはり社長だから」という目上に対する気遣いがあるという点では、条件付きの信頼関係はあります。社長は社員に対して影響力を持ち、指示ついても大切な社員に対して「命令」よりも「説得」という観点で臨んでいたのではないでしょうか。このようなケースでは「自分が正しい」とどうしても考えがちになってしまいます。
フラットな関係性でエネルギーの交流に
「ただの人」となったあなたには、もう取引型や守備型のコミュニケーションは通じません。相手と心を通わせる「エネルギーの交流」が求められます。共に考え、同じ目的に向かって会話をする姿勢が必要です。
もう嫌な取引先と付き合う必要もありません。目の前の相手とどのように心を通わせ、お互いがハッピーな結果を得られるかを考えながら対等にコミュニケーションをすることが求められます。
NPOでのボランティアで気づいたこと
自分が立ち上げた会社を廃業した後、NPOでのボランティアに従事している浅田侑子さんは、当初コミュニケーションの取り方で躓きました。
女性として男性と対等に渡り合ってきた浅田さんは、ロジックを重視し、すべてにおいて合理的判断に基づいた関係者の説得には自信がありました。ところがそんな考え方が通じず、当初は孤立してしまったといいます。
「私が所属しているNPOでは、存続して社会に貢献していくことが求められていました。NPOとして事業運営してくことはもちろん必要ですが、多くのステークホルダーとの調整の中で、必ずしも合理的ではない判断が必要なこともありました」と浅田さん。
NPOの理念を学びなおし、以前よりも長期的視点で考えられ、スタッフとの会話にも変化が生まれたといいます。「『正しい方向を自分で示すべき』という思い込みを捨てた時点で楽になりました」と笑顔で振り返りました。
人間関係の「質の変化」を受け入れられるか
廃業を経験して、社長ではなくなったあなたは、「人間関係の質の変化」が待ち受けています。もうあなたが全てを決る必要もなく、あなたの決断が絶対ということもなくなります。
共に考え、同じ目的に向かって会話をするような、型の力を抜いた生き方をしてみませんか?