中小企業の経営者が廃業を決意した際に考えることの一つが、在庫処分です。会計上、これらの商品は資産として計上されていますが、事業を停止するとこれらをいかに効率的に、かつ税務上適切に処理するかが課題となります。
「売ったはいいけど、どのように仕分けするの?」
「処分にかかった費用は損金にできるの?」
「自宅に持って帰ってもいいの?」
「在庫処分にかかった費用に補助金は出るの?」
といった疑問が浮かびます。
当記事では、法人が廃業する際の在庫処分の仕分けや、廃棄処分にかかった費用に使える補助金について考えてみます。
廃業にともなう在庫処分セールをしたときの仕訳のやりかた
廃業を決定したときに、不良在庫は少しでも売ってしまいたいもの。在庫処分セールで値引き販売を行った場合や、ネットオークションでたたき売りをした場合、業者に在庫の買取りを依頼した場合は、通常の販売取引と同じ仕分けになります。
ちなみに、簿記の世界では全ての勘定を「貸方」と「借方」の2つに分けて記帳します。貸方とは、出ていくお金や商品です。借方は増えた資産が該当します。
廃業にともなう在庫処分セールの場合は、借方が現金や預金の金額となります。貸方のほうは売上高の金額です。さらに、それに加えて借方に仕入れ額(売上原価)、貸方に棚卸資産の金額として記帳する必要があります。以下のような形ですね。
現金・預金 / 売上高
仕入 / 棚卸資産
もしあなたが、事業承継先を検討した場合には、在庫の評価をして企業価値を見積もったかと思います。多くの場合、在庫処分で売れる金額は、その時見積もった金額よりも低くなることを覚悟しておきましょう。事業承継の場合は、在庫は「これから利益を生むもの」として評価されますが、在庫処分セールは「安く処分」の色が出てしまいます。
特にアパレル関係の製品の場合は、業者に出した時の買取価格は極端に低くなることが多いように思います。時間の経過によって減価しやすいファッション関連の製品に関して、流行のある季節商品は特に価値が低くなってしまいます。
耐久消費財でも原価程度になってしまうことも多いにゃん
在庫処分として廃棄した場合の仕分のやりかた
廃業に向けてお金をかけて在庫廃棄した場合の仕訳は、借方が棚卸廃棄損の金額で、貸方は棚卸資産の金額と在庫廃棄のために支払った金額として計上します。
お金をかけて在庫廃棄した場合はこういうことになるにゃん
特別損失 / 棚卸資産
現金・預金
なお、在庫を廃棄処分する場合は、証明書が必要です。これを「廃棄証明書」といい、廃棄物の処理が完了した際に「適切に(かつ本当に)処理された」という証明のために処理業者から発行されます。
在庫を廃棄したと見せかけ損金を計上し、実際は売ってお小遣いにしていた」みたいなのはダメだにゃん。
自宅に持って帰る場合は、給与となるにゃん。借方は給与で、貸方は棚卸資産の金額を記帳するにゃん
給与 / 棚卸資産
在庫の廃棄処分で使える「事業承継・引継ぎ補助金」がある
実は、在庫の廃棄処分で使える「事業承継・引継ぎ補助金」があります(2023年9月現在)。この「事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)」は、廃業・再チャレンジを行う中小企業者等に対する支援となります。ポイントは、廃業だけではなく、次のチャレンジが想定されていることにあります。
対象となるケースは以下の4つの場合です。
(1)事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
(2)M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
(3)M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
(4)M&Aで事業を譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ
補助対象となる経費は以下となり、その中に「在庫廃棄費」が含まれています。これは既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費について補助がでることになります。なお、商品在庫等を売却して対価を得る場合の処分費は、補助対象経費とならないことに注意しましょう。
補助対象経費
廃業支援費 | 廃業に関する登記申請手続きに伴う司法書士等に支払う作成経費 解散事業年度・清算事業年度・残余財産確定事業年度(いずれも法人の場合)における会計処理や税務申告に係る専門家活用費用 精算業務に関与する従業員の人件費 |
在庫廃棄費 | 既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費 |
解体費 | 既存事業の廃止に伴う建物・設備等の解体費 |
原状回復費 | 借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用 |
リースの解約費 | リースの解約に伴う解約金・違約金 |
移転・移設費用 (併用申請のみ計上可) | 効率化のため設備等を移転・移設するために支払われる経費 |
後日の税務調査に備えて
税務調査は廃業しても来ることをご存じでしょうか。前述したように、廃棄証明書の取得などをおろそかにしておくと、後日税務調査があった際に、本当に廃棄をしたかどうか疑われることがあるかもしれません。架空の損失をつくって税金逃れをしているのではないかという疑いを持たれないよう、廃棄証明書はしっかりと取っておきましょう。
廃棄証明書以外にもできることはあります。廃棄するところを写真に撮っておいたり、業者とのやり取りのメールなどを残しておくとよいでしょう。