起業として人気のエステサロン。参入障壁はそれほど高くはなく、多くの事業者が参入する分野でもあります。東京都で小さなエステサロンを営む、早坂博美さん(50代・仮名)は体力の衰えを理由に、エステサロン売却を試みましたが、結果的には廃業という手段を取りました。早坂さんはどのような経緯でエステサロンの廃業という選択をしたのでしょうか。
売却で大金を得ようとは考えない
早坂さんのエステサロンは1店舗。こじんまりと経営するエステサロンでした。開業して10年。駅から5分程度の立地で、固定客もついています。Instagramのアカウントも運営し、Googleの評価もまずまず。地道にやってきた効果がしっかりと出ています。
【早坂さんのエステサロンの店舗情報】
テナント家賃:約月30万円
テナント面積: 約20坪
その他敷金:約220万円
座席数:2部屋(完全個室)
スタッフ:2名
「正直に言うと、昔のようには仕事ができなくなってきました。体力的にきついというか、昔ほどの熱量が持てなくなったというか…」と早坂さんは事業を手放すことになったいきさつを説明します。
そこで早坂さんは事業の引継ぎ先を探すべく、M&Aの仲介をしているサイトに登録しました。「歴史のある店舗だし、いい値段がついてくれれば・・・」と期待しましました、現実は甘くはありませんでした。いまや多くの小規模企業がこのようなM&Aのサイトに登録しています。「廃業予備軍」という見方もできるかもしれません。「購入を検討する人たちは投資を回収できるのかどうか、とても細かく見てきますね。高く売れればいいなというのは甘い考えでした」と早坂さんは苦笑いで振り返ります。
「自走可能な店舗ではない」ことが売却のネック
早坂さんのエステサロンに興味を持ってくれた人たちは多かったものの、彼らが重視したのは「その店舗が自走可能かどうか」でした。
「スタッフはオーナーの私以外に一人。業務委託として入ってくれています」と早坂さん。このスタッフは5年間ともにやってきましたが、子育て中ということもあり、すべて本人に任せることができません。「オーナーの私が、運営から施術までいろいろやっていました。固定客の多くは私についてくれています」(早坂さん)。
小さな規模のエステサロンは、個人が副業として購入することもあります。副業として現場に立たず、経営だけをしたい人たちにとっては、「店舗が自走できているかどうか」が重要になります。
早坂さんのエステサロンは、現場にも立つ早坂さんに抜けられると、「自走可能」ではなくなってしまいます。
値踏みされて…エステサロンの業界の厳しさ
売却を検討するにあたっては、エステサロンならではの難しさもあったといいます。サロンのコンプライアンス体制が整備されているか、医師法違反などの問題を抱えていないかなど、いろいろな観点から調べられ、「値踏みされた」と早坂さんは振り返ります。
「エステティシャンには国家資格がない点や、公的な資格制度が整備されていない点があります。だからこそ、参入がしやすいという利点があるのですが、その分顧客とのトラブルが起こったりすることもあります。私たちは、トラブルもなくしっかりとやってきましたが、何か問題がないか、いろいろと探られましたね」
「廃業したほうが得」という結果に
このエステサロンの財務内容は以下のような状況でした。ギリギリ黒字という状況で決して儲かっているとうわけではありませんが、10年間やってきた利益剰余金が400万円ほどあります。
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【財務内容】
売上:約900万円
営業利益:ぎりぎり黒字
《譲渡対象資産》
内装:約100万円(期末簿価)
設備一式:約200万円(期末簿価)
利益剰余金:約400万円
売買金額以外に保証金の差し替え及び諸経費必要。
既存スタッフ 1 名引き継ぎあり。
運営のためのノウハウ引き継ぎあり
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「多くの買い手候補の人たちは、私が残らない限り買わないということでした。自走できていないとダメということですね。造作・機械の価値のみで、300万程度のオファーは来ましたが…それならば廃業したほうが、利益剰余金なども自分の手元に残る。そのほうが得だということに気づきました」と早坂さんは振り返ります。
早坂さんは、廃業を選択することで、利益剰余金も資産として手元に残しながら、次のスタートを切ることができました。「いまは事務の仕事をしています。土日をしっかり休むことができて、良いワークライフバランスです」と笑いながら話してくれました。