事業を廃業するにはそれぞれの理由があります。多いのは「業績が厳しい」というものですが、「将来性がない」、「もともと自分の代でやめるつもりだった」など、その理由はさまざまですが納得のいくものです。
しかし、それがわかっていても廃業を決断できないこともあります。例えば、若手クリエイターの方々は夢を持ちつづけていることが多いように見えます。彼らにはどのような事情があるのでしょうか。
自分の映画を作り続ける映像クリエイター
自主制作映画を作り続ける秋山太郎さん(仮名)の収入のメインは、企業から発注される広告動画作成という受託事業です。同時に自主制作で映画を撮り続けており、映画製作に時間を割くあまり、受託事業がおろそかになってしまっています。映画に対する思いが強いあまり、企業から言われたものを作ることに面白みを感じません。
そのうち、受託事業のリピート顧客がいなくなり、収入が厳しくなってきました。それでも自分の夢をあきらめきれず、揃えた機材や、自分が作り上げた役者ネットワークのことを考えて、廃業を決めきれないでいます。
作品の映画化も果たした小説家
5年前に小説家としてデビューした西原祐樹さん(仮名)は、このまま小説家としての仕事を続けるか迷っています。西原さんのデビュー作は評価されて新人賞をもらいました。これでようやく食べていけると安堵したのもつかの間、その後に何作か出すものの発売部数も伸びない状況が続いています。
そんななか、西原さんはデビュー作の小説を脚本にして映画を撮れないかと、映画監督に声をかけてもらいました。これでなんとか行けるかと思ったものの、映画監督もそこまで力がある方ではなく、映画が完成して上映するのも小さな映画館で数週間のみでした。結果的に収入もさほど大きなものになりませんでした。
西原さんはいまでも出版社や映画監督から声をかけてもらえてはいます。それはうれしいものの、なかなか収入につながりません。コンビニでアルバイトをしながら生計を立てている状況で、このままで良いのかどうか迷っています。
15年続けたバンドマンを辞めるか
バンドマンとして15年やってきた渋谷颯太さん(仮名)は35歳になった今、この先を悩んでいます。いつかは売れたいと思ってやってきましたが、実際にはクラブと契約し、そのバックバンドメンバーとして生計を立ててきました。長年付き合っている彼女がいますが、彼女の親からは「バンドマンをやめてちゃんと就職したら結婚を許す」と言われています。彼女自身もそれを望んでいるようですが、決断できないでいます。
自分のバンドでCDを出したこともある渋谷さんは、「もう少し頑張れば売れるかもしれない」という思いを捨てきれません。「もはやどこまで続ければいいか分からなくなってきました。ファンもいるし、ここまでやってきたんだし」とその気持ちは揺れ動いています。
サンクコストの呪縛
このようなケースは、漫画家、スタイリスト、ライターなど数多くの事例で見てきました。
夢を持つこと自体は素晴らしく、ましてや今は個人の時代です。昔に比べると、クリエイターが活躍しやすい時代になったといえるでしょう。それでも、生活が苦しい場合はどこかで見切りをつけなくてはなりません。
「今やめてしまうと、これまで投資してきた時間・お金や人間関係が無駄になってしまう」と考えて、決断を妨げてしまいがちです。ビジネスシーンに限らず、不採算投資を損切りできない現象が起きます。どうしても「もったいない」という思いが先行してしまうのです。
これを「サンクコストの呪縛」と呼びますが、どこかで損切をするという勇気も必要なのかもしれません。