潜在的な自己(自分自身)の可能性を発見するためのツールとして「ジョハリの窓」というものがあります。客観的に見た自分を知ることで、これまで気づけなかった深い自己理解(自己覚知)ができる利点を持っています。経営者も長く続けていくと、自分を客観的に振り返ることができなくなることもあるでしょう。本記事では自己分析・自己認識のツールとして有名な「ジョハリの窓」についてわかりやすく解説します。
自分が気づいていない資質、他人に気づかれていない資質、他人も自分も知る資質
ジョハリの窓は、自己認識を深めるための心理学的ツールです。人間の行動や性格、感情などを4つの領域に分けて理解するためのモデルで、自己開示とフィードバックのプロセスを通じて、自己分析を通じた人間関係の改善やコミュニケーションの向上を図ることができます。
ジョハリの窓は、以下の4つの「窓」で構成されます。
4つの窓(開放、盲点、秘密、未知)
①開放の窓
自分の分かっている領域と他人の分かっている領域が一致している領域です。自分の考えていることが他人にも分かってもらえているため、円滑なコミュニケーションが取りやすくなります。
②盲点の窓
自分が分かっていない領域を他人が分かっている領域です。自分の気づいていない長所・短所がここにあたります。自分では当たり前と思って見逃すようなことも他人からすると、長所に見えたり短所に見えたりします。ジョハリの窓を自己認識のためのツールと考えた場合。この盲点の窓は非常にわかりやすいでしょう。
③秘密の窓
自分は分かっているが他人には分かっていない領域です。他人が自分の想いや意図を分かっていない状態では、コミュニケーションは難しくなります。自分から他人にその資質・考え方を開示していく必要がある部分です。
④未知の窓
自分も他人も分かっていない領域が一致している領域です。何かのきっかけでこの領域に気づくと新たな才能を開花させることができるかもしれません。
ジョハリの窓
ジョハリの窓のモデルを使うことで、自分自身の自己認識を深め、他人からのフィードバックを受け入れることにより、盲点を克服し、更なる自己成長を促すことができます。また、他人との良好なコミュニケーションを促進し、人間関係を改善することも可能です。自分の改善すべきポイントは自分で決めるものではなく、他者からのフィードバックに基づいて決めたほうが良いということが分かりますね。
ジョハリの窓では「開放の窓」を広げることが重要
ジョハリの窓を使う際に意識したいことは、4つの窓に対し「開放の窓」の領域を増やしてくこと。これができれば、自分の可能性が広がります。自分で気づきを得て、「盲点の窓」にあったものを開放の窓に移動させることができます。自己開示を通じて、秘密の窓にあったものが開放の窓に移動させたりすることもできます。このようにして、開放の窓を広げていくのです。
「言っても無駄…」のシラけた職場が変わった驚きの効果
不動仲介産業を営む今田悟さん(53歳、仮名)は、社員に元気・覇気がないことを気にしていました。そんな今田さんの会社は、社長である今田さんがジョハリの窓を通じて自己認識し、自分を変えていくことで、会社の雰囲気が大きく変わったといいます。
社員たちは社長に対して大なり小なり不満を抱いており、職場全体の雰囲気は凍りついていました。多くの社員が「社長に言っても無駄だ」と感じており、その結果、職場は閉塞感に包まれていました。
今田さん自身もそれは感じていました。そこで自己認識ツールである「ジョハリの窓」を利用し、自分の行動を他者からのフィードバックを通じて客観的に見直すことを試みました。
「フォードバックは4,5人の信頼できる人たちとやるべきと聞いたので、会社の次世代を任せたいと感じている5人に声を掛けました」と今田さん。最初のフィードバックセッションでは、社員たちはとても驚いた様子だったといいます。社長が自分の問題点について、直接社員たちから意見を聞こうとしたからです。一人の社員は「社長の決定は一方的すぎて、私たちの意見も聞いてほしい」と率直に意見を述べました。また、別の社員は「社長の意向がはっきりしないと、仕事がしにくい」と指摘しました。
これらのフィードバックを受けて、社長は自分の行動とそれが組織全体に及ぼす影響について深く考えました。そして、自分の行動を改めることを決意し、週次の全社会議で社員たちに対し、その意向をはっきりと伝えました。
数ヶ月後、社内の雰囲気は一変しました。社員たちの士気は上がり、社長とのコミュニケーションも大幅に改善しました。その結果、生産性が向上し、会社の業績も大きく上昇しました。以前の「社長に言っても無駄」という感情が嘘のように、社員たちは元気に業務を遂行していました。やった本人たちもその効果に驚いたようです。
ジョハリの窓を通じて自己分析を行い、自分の行動を改めることにより、職場の雰囲気や業績が大幅に改善されたこのエピソードは、リーダーシップと自己認識の重要性を示しています。そして、特に中小企業でこそ可能な、組織全体として一緒に成長する姿勢の大切さを教えてくれます。
今田さんは、「いま、振り返って考えてみると、社員が元気がないと思っていたことは、私が理由で社員がシラけていたんだということが分かりますね」と語ります。
「ジョハリの窓」のやり方や使う質問項目とは
ジョハリの窓のやり方自体は比較的簡単です。難しいのは人選や、自己開示をする覚悟です。実施に関しては20-40個ほどの質問項目について、自分について回答してもらいます。そして自分も回答します。そうすることで、自分の資質について、自分だけが知っていること、自分も他人も知っていること、自分は知らないが他人が知っていることが見えてきます。
質問項目は、いろいろサンプルがありますので、どれを使ってもよいでしょう。例えば、10個ほどをピックアップすると以下のようなものです。このような項目に対してフィードバックをもらい、自分も答える(記入)という流れになります。
ジョハリの窓:質問項目(一部)
- 頭が良い
- 発想力がある
- 段取り力がある
- 向上心がある
- 自信家
- 頑固
- 責任感がある
- プライドが高い
- 聞き上手
- 話し上手
上記のような作業をしながら、フィードバックを受けることで自分自身に気づいていくことができます。前出の今田さんは「参加してくれたメンバーが、私の資質のフィードバックについてできるだけ否定的にならずに、ポジティブな姿勢でいてくれたことが良かったと思います。否定的な話ばかりですと、私も意固地になっていたかもしれません」と話します。
メンバー選びは重要なポイントです。自己開示に強烈なストレスを感じる場合は無理に実行せず、カウンセラーなどを頼りにするのも一つの方法です。
このように「自分が知っている自分」と「他人が知っている自分」を分析することで、自分自身に大きな気づきを得られるのがジョハリの窓です。ジョハリの窓は4つの窓から成り立っています。
- 開放の窓(自分も他人も知っている)
- 秘密の窓(自分は知っているが他人は知らない)
- 盲点の窓(自分は知らないが他人は知っている)
- 未知の窓(自分も他人も知らない)
開放の窓を広げることを目指し、未知の窓の何かをつかみ取ることで、人が大きく変わることができます。あなたもジョハリの窓を試してみてはいかがでしょうか。