廃業を考えるとき、中小企業の経営者は何を心配するのでしょうか?これは単純な質問ではなく、実はさまざまな複雑な要素が絡み合っています。この記事では、廃業を検討している中小企業の経営者が直面する主要な心配事を探り、それぞれがどのように影響を及ぼすかを考えてみます。
財務の問題
借入金の返済や資産の売却については真っ先に上がる懸念でしょう。また、廃業後の生計についても心配することでしょう。廃業のメリットやデメリットを調べて悩んでいるケースも、多くは財務的な観点から考えているのではないでしょうか。
借入金の返済
企業が廃業する時には、負債を返済し、きれいになった状態で会社をたたむ必要があります。これは銀行からのローンだけでなく、ベンダーやサプライヤーからの未払い債務、またはリースやレンタル契約に関連する債務も含みます。債務がなくなった状態にできる場合は、廃業ができます。もし負債を返済できない場合、それは債務超過であり、倒産も考慮しなければなりません。
参考:廃業と破産の違いと、債務超過時の廃業 | 円満廃業.com (en-high.com)
資産の売却
廃業に伴い、企業は物理的資産(例えば、土地、建物、機器など)を売却することを検討するかもしれません。これらの資産を適切な価格で売却し、さらに売却益を最大化するための最善の戦略を立てる必要があります。「この土地をいま現金化してしまってよいのだろうか、もう少し先に売ったほうが良いのではないだろうか」といった迷いを持つ経営者もいらっしゃいます。
退職金の支払い
従業員を解雇する場合、一定の退職金を支払うこともあるでしょう。これらの費用を計算し、予算を準備することはできるのか、自社の経済状況に向き合って考える必要があります。
廃業後の生計
廃業後の生計についても考慮する必要があります。昨今、FIRE(Financial Independence, Retire Early)とよばれる経済的自立と早期退職が話題ですが、経営者の引退もまたFIREの側面を持てる場合があります。
FIRE達成のためには、「年間支出の25倍の資産」が必要とされています。 支出の25倍. 年間の生活費などの支出が400万円であれば、1億円が必要です。年間支出の25倍の投資元本があれば、年利4%で運用すればなんとかなるだろうという考え方です。年利4%は、保守的な投資信託などで地道に運用していけば達成できる利率です。
従業員への影響
廃業は従業員にとって大きな影響を与えます。失業に直面する従業員の生計やキャリアに対する心配もあるでしょう。廃業は従業員の雇用を直接的に脅かします。失業は従業員の生計に大きな影響を及ぼし、新たな仕事を見つけるまでの間、金銭的な困難を引き起こす可能性があります。
経験やスキルにより、廃業後に新たな仕事を見つけるのが難しい従業員がいるかもしれません。これは特に専門的な技能を持つ従業員や、高齢の従業員に当てはまるかもしれません。会社の中で求められてつけてきた特殊技能が、外で通用しないということもありえます。経営者としてはそのような従業員にも真摯な対応をしたいところです。
廃業は従業員にとって情緒的なストレスを引き起こす可能性があります。特に、長期間同じ会社で働いていた従業員は、突然の変化と不確実性を抱えることになります。
参考:社員と揉めない廃業のために今からできること(専門家インタビュー) | 円満廃業.com (en-high.com)
顧客への影響
または長年お世話になった顧客を困らせてしまい、顧客との信頼関係を損なうことについて心配することもあるでしょう。特に日本の経営者ではこの傾向が強いかもしれません。
製品・サービスの利用停止、保証・サポートの停止
その製品やサービスを使用していた顧客は代替のものを探したりすることになります。これは特に、特殊なニーズを満たすための特定の製品やサービスを提供していた企業の場合、顧客にとって大きな影響を与える可能性があります。そのようにならないためには、事業継承によって運営を継続する必要がありますが、廃業したとしても生産やアフターサービスを引き継いでくれる企業を見つける方法もあります。
これらの影響を軽減するために、経営者は早期に廃業の決断を顧客に伝え、可能な限りのサポートを提供したいと思うところでしょう。例えば、製品の保証やサポートが必要な顧客に対しては、他の企業を推奨するか、廃業までの期間中に可能な限りのサポートを提供することが考えられます。しかし、突然の廃業となると、代替の企業探しに労力を割けないのも現実です。
ビジネスの未来(サンクコストの呪縛)
廃業することで、潜在的な成功を逃すかもしれないという心配もあるでしょう。また、何らかの形でビジネスを続けることが可能かどうかについても考えるでしょう。「ここまでやってきたのだから、ここでやめられない」という「サンクコストの呪縛」です。
サンクコストの呪縛とは、過去に投資した時間や労力、資金などのリソースに対する執着や固執が、合理的な意思決定を妨げる現象を指します。言い換えれば、すでに投資したものを無駄にしたくないという心理的な負担や執着から、本来ならば別の選択をするべきにもかかわらず、継続することがあるということです。
この現象は、個人だけでなく組織やビジネスにおいても起こります。例えば、新しいプロジェクトを開始したが最初の段階で予想外の困難に直面した場合、既に多くの時間や予算を費やしているために、それまでの投資を無駄にしたくないという気持ちが働きます。その結果、プロジェクトが本来ならば中止するべきであるにもかかわらず、続行してしまうことがあります。
サンクコストの呪縛は、合理的な判断を歪める可能性があります。本来であれば、将来の見通しや新たな情報に基づいて最善の選択をするべきですが、過去の投資に執着してしまうことで、本来の判断基準から逸れてしまうのです。
この呪縛から解放されるためには、客観的な視点で判断をすることが重要です。過去の投資に捉われるのではなく、将来の利益や成功確率、現在の状況などを冷静に考慮し、最善の選択を行う必要があります。また、意思決定においては感情的な要素を排除し、合理的な分析と判断を行うことも重要です。
要するに、サンクコストの呪縛は、過去の投資に固執して現実的な選択を妨げる心理的なバイアスです。この呪縛に気づき、客観的な判断を行うことで、より良い結果を生み出すことができるでしょう。
レピュテーション
個人的な評価や評判に対する心配もあります。「廃業した」ということをネガティブな意味で捉えられたくないという思いがあるかもしれません。ただ、廃業は倒産とは違うため、その点をはっきりさせておいたり、周囲の評判を気にしないでいたりすることで乗り越えられるでしょう。
法的・税務的な問題
適切に廃業手続きを行うこと、税務上の問題を解決することなど、法的・税務的な問題について心配する経営者も多いでしょう。以下のような点が主に心配事ごととして挙げられます。
事業の清算
企業が廃業する場合、資産の清算が必要となります。これには、負債の返済、従業員への最終給与の支払い、残存資産の販売や処分などが含まれます。これらは適切に行われなければ、法的な問題を引き起こす可能性があります。
参考:会社をたたむ時の4つの選択肢 | 円満廃業.com (en-high.com)
税務
企業の廃業には多くの税務上の考慮事項が関わります。これには、最終的な税金の計算と支払い、税務申告書の提出、退職金や解雇金の税務処理などが含まれます。これらの手続きが適切に行われないと、罰金や追徴税を課される可能性があります。
参考:廃業にかかるお金を知る | 円満廃業.com (en-high.com)
契約関連の問題
事業の廃業は、サプライヤーや顧客との既存の契約に影響を与えます。これらの契約を解除または再交渉する際には、違約金や契約条件など、さまざまな法的な問題が発生する可能性があります。
労働法
従業員を解雇する際には、労働法を遵守する必要があります。適切な解雇手続きを踏まないと、違法解雇の訴訟を起こされる可能性があります。
しかし、このような心配ごとは、「どんな問題があるか分からない」という恐れから来ているように思えます。多くの経営者にとって、廃業は初めてのことでしょう。初めての手続きに不安を覚えるのは当然のことです。このような法務・税務的な問題は専門家に相談することも可能です。