社労士から見た、円満廃業に必要な誠実さ(専門家インタビュー)

社会保険労務士法人ONE HEART 代表 吉田優一

社会保険労務士は、労働法や社会保険制度に関する専門知識を持ち、企業の人事・労務に関する相談や業務をサポートする専門家です。廃業を考える企業にとって、社会保険労務士は、労働法や社会保険制度、従業員の処遇に関するアドバイスや、各種書類の作成や手続きの代行という役割を果たすことができます。

労務の専門家から見た廃業とはどのようなものか、社会保険労務士法人ONE HEART 代表の吉田優一先生に伺いました。

社会保険労務士法人ONE HEART 代表 吉田優一先生

社会保険労務士法人ONE HEART
代表 吉田 優一

慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。
効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。
得意分野は効率的な労務管理の業務設計。「労務管理に問題を感じているが、どこから手をつけていいのかわからない」や「今よりももっと効率的な労務管理の方法があるはず」という悩みを解決できます。
経営者に役立つ情報を”社労士吉田優一の『給与設計相談室』“で音声配信中!

目次

廃業するなら計画的な廃業が必須

吉田先生は、社会保険労務士として10年以上、中小企業の経営者と向き合ってこられましたが、経営者から寄せられるのはどのような悩みが多いですか?

私は主にサービスとしては、中小企業の労務相談、社会保険手続きの代行、給与計算を中心に経営を支援しています。その中で社長さんと対峙することも多いですが、会社の悩みや経営者の悩みって、ほとんどが人かお金なんです。

人とお金ですか。売り上げが立たないとか、資金繰りが厳しいといったお金の悩みは、主に税理士の役割になりますか?

そうですね。人の悩みに関するところが社会保険労務士になります。ある程度事業が軌道に乗ってくると、お金に加えて人の悩みが出てきます。私も10年やっていると、お客様の中で「廃業」という選択を選んだお客様もいらっしゃいます。

どのようなケースがありましたか。

廃業を選択した理由に「後継者がいない」というのはよくあります。ただ、「後継者がいない」ということは何年も前からわかっていたことです。
「日々の仕事が忙しい」「後継者は探していたけれど見つからなかった」といったような理由はあったのかなとは思いますが、廃業を回避するチャンスっていうのもあったのではないかと思います。

「廃業は避けるべき」という意味でしょうか?

いえ、廃業するにしても、良いタイミングで廃業できたのではないかということです。もしかしたら廃業ではなく事業承継できたかもしれないと思っています。

資産を残すという視点で、お金が作る前に廃業というのは分かりますが、社労士の立場から見てもタイミングは重要なのでしょうか。

突然の廃業は、従業員にとって大変です。全員退職ですよね?全員が解雇ということになります。これは人の人生においてはものすごいマイナスポイント。やっぱり在職しているうちに転職させてあげたいなと思うことが多いです。在職中の転職は、退職する労働者も転職先の会社を選べる立場でいられます。

しかし、「廃業しちゃいました無職です」となれば再就職先を探すにも、時間の制限がでてきます。つまり、人事労務の観点からすると、人を雇用してる以上は、急な廃業を回避すべきだと思っています。

廃業するにしても、計画的な実行が必要ということですね。


従業員との共通理解が取れないと泥沼になる

円満でない廃業ってどうものでしょうね。「円満離婚」の反対が「泥沼離婚」。「円満廃業」の反対は「泥沼廃業」でしょうか(笑)

泥沼廃業(笑)。経営層と従業員がもめる泥沼廃業を回避するには、十分な説明が必要です。実は労使紛争が起こるときって、共通点があるんです。経営側と従業員側の認識が異なるときです。

それって例えばどうったケースですか?廃業に関わらず共通の話ですか?

はい、廃業の際に限りません。雇用する側と社員との評価に対する認識の違いでもめることは日常茶飯事です。例えば会社側から見て「この人はなかなか成果が上げられない」と評価していたとします。しかし、そこに対して会社側がちゃんフォードバックや教育・指導をしておらず、従業員本人は「自分は仕事ができる」と思い込んでいるケースです。

そういう状態で解雇をすると、揉めそうですね…。

はい。これは円満な廃業においても同じことが言えると思っていいます。つまり、「なぜ廃業するのか」ということに対しての、経営側と従業員側の認識があっている必要があります。

「手を尽くしたけれども、廃業にという決断をしたんだと」従業員にも理解してもらうということですか?

そうです。従業員のかたは「経営から逃げ出した」と思っていたら良くないですよね。経営側はちゃんと計画的に廃業し、対応選択することです。そして十分に準備した上で説明して廃業するのが良いかなと思います。

「もう会社が終わるんだから、解雇はやむなし」といった形で、一方的な形で伝わると良くないかなと思います。従業員としては「そこに至った経営責任があるはずだろう」と考える。それを説明しなかったり、謝罪しなかったりすると従業員とのトラブルが起きがちです。

円満廃業には誠実さが必要ということですね。従業員ともめない円満廃業には、具体的にはどのようなことができるのでしょうか。

従業員と揉めない円満廃業のためにできること

まず「なぜ廃業を選択せざるを得なかったのか」を十分説明した上で、ご退職いただくというのが重要です。これは基本的に解雇という方法になります。その上でできる再就職支援策はまず一つでしょう。できる限り手を尽くしてやるという姿勢も重要です。

また、「退職後にハローワークに行けば失業保険がもらえますよ」という説明も大切ですね。そのようなことは調べればわかることですが、会社が丁寧に説明しているかどうかが大事です。

退職後の失業保険の給付のシミュレーションをしたりもします。受給金額や受給期間の説明をした上で、そこに退職金をちゃんとつけて解雇したケースは、まず揉めません。お互い前を向いてやっていけたと思います。

仕事って、本当は1人でできるものではないでですよね。それなのに、社員を一つの労働力としてしか見ていなかった場合は、説明不足になったりするんでしょうかね。

うまく円満にいかなかったケースは、そういった気持ちが見え隠れしたんだと思います。一方、うまくいったケースは普段から「スタッフのためにやりたい」と開業する前からおっしゃっていたので、それが廃業する瞬間でも伝わったんだと思います。

続き:「社員と揉めない廃業のために今からできること(専門家インタビュー)」

 エマニャン

円満廃業ドットコム 編集部のアバター

円満廃業ドットコム 編集部

会社経営において、終わり方に迷いを持たれる経営者は数多くいらっしゃいます。廃業にまつわる「何をすれば良い」「本当に廃業すべきか分からない」といった様々な不安をクリアにし、これまで努力されてきた経営者が晴れやかなネクストキャリアに進めるように後押しします。

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